- 犬は何も聞かない。ただそばにいる――そこから始まったスクールドッグの全国普及
- 青木潤一さんとスーが学校で出会った子どもたち
- スクールドッグを知り「これなら居場所を作れるかもしれない」と考えた
- 教師には話さなかった悩みをスーのそばで話すようになった
- 無表情だった先生まで笑った スーが変えた学校の空気
- 自殺未遂を経験した生徒にスーが寄り添った
- 「この学校だけで終わらせたくない」15年勤めた教員を退職
- なぜ移住先が岡山県西粟倉村だったのか
- 2022年には日本スクールドッグ協会を設立
- 2026年もスクールドッグは学校の日常に入り始めている
- スーだけではない アスラン、フルート、テディへ受け継がれる役割
- 実用情報|スクールドッグを学校へ導入する方法
- 「何をするか」より「そこにいること」を大切にするスクールドッグ
- Mr.サンデー「犬が作る優しい居場所」と重なる青木潤一さんの実践
- まとめ|スーに救われた一人の生徒の言葉が全国へつながった
- 気になる生活ナビをもっと見る
犬は何も聞かない。ただそばにいる――そこから始まったスクールドッグの全国普及
2026年9月6日放送のフジテレビ系『Mr.サンデー』では、「スクールドッグ物語 犬が作る優しい居場所」が取り上げられます。番組公式では再現ドラマの当事者名までは公表されていませんが、「犬が子どもの居場所になる」というテーマを追うと、もう一つ外せない実話があります。
一般社団法人日本スクールドッグ協会代表理事の青木潤一さんと、ラブラドール・レトリーバーのスーの物語です。
京都で15年間教師をしていた青木さんは、学校へスーを連れて行く活動を始めました。そこで目の当たりにしたのは、教師には話せなかったことを犬のそばでは話せる生徒たちの姿でした。
そして、自殺未遂を経験した一人の生徒が卒業時に伝えた「スーが自分の命を救ってくれた」という言葉が、青木さんの人生を大きく動かします。青木さんは教職を離れ、岡山県西粟倉村へ移住。スクールドッグを全国へ広げる活動へ踏み出しました。
この記事でわかること
- 青木潤一さんがスクールドッグを始めた理由
- ラブラドールのスーが生徒たちに与えた変化
- 「命を救ってくれた」と語った生徒との実話
- 教員退職、西粟倉村移住、日本スクールドッグ協会設立までの歩み
青木潤一さんとスーが学校で出会った子どもたち
青木潤一さんは、大学卒業後に学校現場へ入り、京都の私立中学校などで15年間教員として働きました。
最初から「犬を使った教育」を専門にしていたわけではありません。
教師になった最初の頃から、青木さんの頭に残り続けていたのは、学校に居場所を見つけられない子どもたちの存在でした。
初めて担任をした中学3年生のクラスにも、不登校の生徒がいました。
青木さんはその生徒の自宅近くへ通ったり、学校へ来られた日には一緒にザリガニを捕りに行ったりしながら、少しずつ関係を作ります。
週1回だった登校が週2回、3回と増え、最終的には卒業式にも出席できました。
ところが、高校進学後、その生徒は再び学校へ行けなくなります。
高校へ向かうはずだった朝、生徒は青木さんへ電話をかけていました。しかし青木さんが着信に気づいたのは昼過ぎ。生徒はその後高校へ通えなくなり、途中で退学しました。
青木さん自身が後に振り返っているように、この経験は教員人生を通して残り続けました。
「自分は、本当にその子の居場所を作れていたのか」
学校教育について考える原点の一つになったのです。
スクールドッグを知り「これなら居場所を作れるかもしれない」と考えた
転機になったのが、学校へ犬を連れてくる動物介在教育との出会いでした。
東京では、吉田太郎さんが立教女学院小学校で学校犬バディとともに動物介在教育を実践していました。
青木さんはそうした取り組みを知り、
「犬が学校にいたら、居場所を見つけられる子がいるかもしれない」
と考えるようになります。
自身が勤務していた学校でも導入を進め、2018年にはラブラドール・レトリーバーのスーを迎えました。
スーは盲導犬になるための訓練を受けたものの、最終的には盲導犬にならなかった「キャリアチェンジ犬」です。
人に対する寛容さがあり、とくに子どもが好きだったスーを学校へ連れて行くと、生徒たちが自然に集まり始めました。
教師には話さなかった悩みをスーのそばで話すようになった
スクールドッグを置いたからといって、犬がカウンセラーのように質問をするわけではありません。
むしろ逆でした。
スーは何も聞きません。
ただそばにいて、触らせてくれる。
散歩をしたり、お世話をしたり、一緒に座ったりする。
そんな時間が積み重なる中で、生徒たちは青木さんに少しずつ自分のことを話すようになりました。
「実は友達がいない」
「家庭でしんどいことがあった」
それまで表に出てこなかった悩みが、犬を間に置くことで自然に出てきたといいます。
これは、スクールドッグを理解するうえでとても重要な部分です。
大人は、子どもから悩みを聞くと、
「こうしたほうがいいよ」
「頑張ってみよう」
と解決策を伝えたくなります。
でも、その瞬間の子どもが本当に欲しいのは、アドバイスではないことがあります。
青木さんは後に、生徒から「犬はしゃべらないからいい。大人は求めていないのに説教やアドバイスをする」という趣旨の言葉を聞いたと語っています。
犬は評価もしません。
成績も聞きません。
理由を説明することも求めません。
その「何もしないこと」が、かえって大きな意味を持つのです。
無表情だった先生まで笑った スーが変えた学校の空気
スーが影響を与えたのは、生徒だけではありませんでした。
青木さんによると、普段はあまり表情を見せない教員がスーと接したときに笑顔になり、それを見た生徒たちが驚いたこともあったそうです。
「先生にもこんな顔があるんだ」
それだけで、生徒と教師の距離が少し縮まります。
犬を中心に、
「かわいいね」
「今日は眠そうだね」
「散歩行く?」
という、学校の成績や人間関係とは関係のない会話が生まれる。
スーは、生徒と教師双方が普段まとっている“殻”を外すきっかけになりました。
最終的には学校で存在を認められ、卒業アルバムにもスタッフとして掲載されたと紹介されています。
もはや「先生が連れてきたペット」ではありません。
学校を構成する一員になっていたのです。
自殺未遂を経験した生徒にスーが寄り添った
青木さんの人生を大きく変えた出来事も、学校で起こりました。
勤務していた学校で、ある生徒が自殺未遂を経験します。
救急搬送され命は助かりましたが、学校へ戻った後も、その生徒は安心できる居場所をなかなか見つけられませんでした。
そこで生徒のそばにいたのがスーでした。
青木さんは西粟倉村の移住・起業情報メディアのインタビューで、この出来事について語っています。
生徒はスーと過ごしながら卒業まで学校生活を続け、卒業するときに、
「自分の命を救ってくれた」
と伝えたといいます。
もちろん、犬だけが生徒を支えたという単純な話ではありません。
医療や家庭、学校、多くの人による支援があったはずです。
それでも、生徒自身が「スーに救われた」と感じていたことは、青木さんにとって大きな意味を持ちました。
学校に犬がいることは、単なる癒やしイベントではない。
本当に子どもの「居場所」になり得る。
その確信が強くなっていきました。
「この学校だけで終わらせたくない」15年勤めた教員を退職
スクールドッグの活動は勤務校でうまくいっていました。
だからこそ、青木さんには別の疑問が生まれます。
この活動が、自分の勤務する1校だけの取り組みで終わったらどうなるのか。
青木さん自身が退職すれば、スクールドッグもいなくなってしまうかもしれません。
全国には同じように学校へ行くことに苦しんでいる子どもがいる。
だったら、仕組みそのものを広げられないか。
青木さんは長年勤めた学校を離れる決断をします。自身の記録では、スクールドッグに救われた教え子から「将来は先生と一緒にこの取り組みを広げる手伝いがしたい」と連絡をもらったことも、現在の活動を支える言葉になっていると明かしています。
15年間続けた教師という安定した仕事を離れ、2021年、家族とともに岡山県西粟倉村へ移住しました。
なぜ移住先が岡山県西粟倉村だったのか
西粟倉村は、岡山県北東部に位置する人口の小さな村です。
青木さんがここを選んだ背景には、村が長期的な視点で地域づくりを進めていることへの共感がありました。
特に、森林を次の世代へつなぐ「百年の森林構想」という考え方に、自身の教育観と通じるものを感じたといいます。
子どもの教育も、すぐに結果が出るものではありません。
目の前の成績だけではなく、その子が10年、20年後にどう生きているかを見る。
そんな長い視点で教育を考えたいという青木さんに、西粟倉村の考え方が合ったのでしょう。
ここで立ち上げたのがSocial Animal Bondです。
公式サイトでは、「スクールドッグを広め、日本中の小中高生を元気にする」をコンセプトに掲げています。
2022年には日本スクールドッグ協会を設立
青木さんは2022年、さらに一般社団法人日本スクールドッグ協会を設立し、代表理事に就任しました。
目的は、自分自身が犬を学校へ連れて行くだけではありません。
動物介在教育についての研究や調査、講習会、実践者の育成などを通して、各地の学校がスクールドッグを導入できる仕組みを作ることです。
この違いは大きいところです。
青木さん一人が全国の学校を回っても、訪問できる数には限界があります。
しかし、
犬を育てる人
犬と学校をつなぐ人
学校内で担当する人
安全管理をする人
を増やしていけば、スクールドッグのいる学校そのものを増やすことができます。
活動が「個人の実践」から「全国へ広げる仕組み」に変わったのです。
2026年もスクールドッグは学校の日常に入り始めている
青木さんたちの活動は現在も続いています。
岡山県立林野高校では、2025年9月からスクールドッグを本格導入。ラブラドール系のアスランが週2回学校を訪れ、生徒と触れ合っています。学校側は、思いやりや自己肯定感、命の大切さなどを学ぶ教育活動として位置づけています。
島根県の開星中学校・高等学校でも、スクールドッグレイを導入。
2026年3月に青木さんが学校を訪れた際には、
登校時や休み時間に生徒同士の会話が自然に生まれる
心が不安定なときに落ち着きを取り戻す
誰かのために関わる経験が増える
といった変化が学校側から報告されています。
スクールドッグは「特別なイベントの日だけ来る犬」から、少しずつ学校の日常にいる存在へ変わりつつあります。
スーだけではない アスラン、フルート、テディへ受け継がれる役割
青木さんの活動では、スー以外にも複数のスクールドッグが活躍してきました。
ソトコトの取材では、スーのほかにアスランやフルートが紹介されています。現在はテディなども学校訪問を行っています。
犬によって性格も違います。
元気に遊ぶのが好きな犬もいれば、静かに隣に座ることを得意とする犬もいる。
子ども側も同じです。
思い切り犬と遊びたい子もいれば、少し離れた場所から眺めたい子もいます。
スクールドッグで大切なのは、「全員が犬と触れ合う」ことではなく、その子自身が距離を選べることです。
そこにも「居場所」という考え方が表れています。
実用情報|スクールドッグを学校へ導入する方法
Social Animal Bondでは、学校や施設向けに複数の導入方法を用意しています。
公式サイトでは大きく、
1回のイベントなどで一時的に犬と過ごす方法
一定期間、定期訪問してもらう方法
スクールドッグを学校へ常駐させる方法
の3タイプを紹介しています。
つまり、最初から学校で犬を飼育する必要はありません。
まずはハンドラー同伴で訪問してもらい、生徒の反応や学校との相性を見る方法もあります。
犬が苦手な児童・生徒、アレルギーのある子への配慮は当然必要ですし、犬自身の休憩時間やストレス管理も欠かせません。
「かわいいから学校に連れてくる」のではなく、人と犬双方にとって安全な教育活動として設計することが重要です。
「何をするか」より「そこにいること」を大切にするスクールドッグ
青木さんが活動の中で大切にしている考え方の一つが、
DoingよりBeing
という考え方です。
何かをすることより、そこに存在すること。
学校ではどうしても、
「何点取った」
「何ができる」
「何を頑張った」
というDoingで評価される場面が増えます。
でも、犬はそんなものを求めません。
テストで0点でも100点でも態度を変えない。
友達が多くても少なくても関係ない。
昨日学校を休んでいても、今日来れば同じように迎えてくれる。
その存在そのものを受け入れる関係が、学校の中に一つ増える。
青木さんがスクールドッグを「居場所」と呼ぶ理由は、そこにあります。
Mr.サンデー「犬が作る優しい居場所」と重なる青木潤一さんの実践
9月6日の『Mr.サンデー』は、「スクールドッグ物語 犬が作る優しい居場所」と予告しています。
現時点の番組公式情報だけでは、再現ドラマで青木潤一さんやスーの物語が描かれるとまでは確認できていません。
ただ、「犬が子どもの居場所になる」というテーマを理解するうえで、青木さんとスーの実話は非常に象徴的です。
教師が何度言葉をかけても届かなかったところへ、犬は何も言わずに入っていった。
そして一人の生徒から出た、
「スーが自分の命を救ってくれた」
という言葉。
その言葉が、今度は青木さんの背中を押しました。
1校の取り組みだったスクールドッグは、西粟倉村での事業になり、日本スクールドッグ協会の設立につながり、いま各地の学校へ広がっています。
まとめ|スーに救われた一人の生徒の言葉が全国へつながった
青木潤一さんは京都で15年間、学校教員として働いてきました。
その中で何度も向き合ったのが、学校に「居場所」を見つけられない子どもたちでした。
2018年に迎えたスクールドッグのスーは、生徒たちに何かを教え込むわけではありません。
ただ、そばにいました。
教師には話さなかった悩みを口にする生徒が現れ、学校の雰囲気が変わり、やがて自殺未遂を経験した生徒から「自分の命を救ってくれた」と言われるまでになります。
その経験を1校だけで終わらせたくないと考えた青木さんは教員を退職。2021年に岡山県西粟倉村へ移住してSocial Animal Bondを立ち上げ、2022年には日本スクールドッグ協会を設立しました。
現在はスーだけでなく、アスラン、フルート、テディなどの犬たちへ、その役割が受け継がれています。
スクールドッグが子どもに与えるものは、劇的な解決策ではないのかもしれません。
それでも、
「今日は犬に会うために学校へ行ってみよう」
と思える場所が一つある。
その小さな理由が、ある子どもにとってはとても大きな意味を持つのです。
参考リンク
ソトコトオンライン「Social Animal Bondのスクールドッグが、子どもたちの心を支える」
気になる生活ナビをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。


コメント