奥飛騨で「発電」と「温泉」が共存する仕組み
2026年9月8日放送のNHK『午後LIVE ニュースーン』では、観光客の減少などに直面してきた奥飛騨温泉郷で、地域資源の「地熱」を使って新しい産業を生み出す取り組みが紹介されます。中でも注目したいのが、温泉を守りながら電気もつくる地熱発電です。
奥飛騨では、単に発電所を建てただけではありません。「蒸気は発電に使い、熱水は温泉として地域へ戻す」という仕組みをつくり、旅館や住民と発電事業者が利益を共有できる形を目指してきました。中尾地熱発電所を中心に、その仕組みや地域へのメリットを詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 中尾地熱発電所の場所・出力・発電方式
- 「ダブル・フラッシュ方式」が普通の地熱発電とどう違うのか
- 地熱発電が奥飛騨の温泉旅館や住民にもたらしたメリット
- 中尾地熱発電所を実際に見学する方法
中尾地熱発電所は焼岳の熱を使う1,998kWの発電所

中尾地熱発電所があるのは、岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾。活火山・焼岳の周辺にある豊富な地熱資源を利用する発電所で、2022年12月1日に営業運転を始めました。
最大出力は送電端で1,998kW。発電量は一般家庭およそ4,000世帯分に相当します。発電を担当する中尾地熱発電株式会社にはシーエナジーと東芝が出資しています。
奥飛騨温泉郷というと、露天風呂や北アルプス観光を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし地下では、旅館の浴槽に注がれるお湯だけでなく、発電に使えるほど高温の蒸気と熱水が存在しています。
その地下資源を「温泉か発電か」の二者択一にせず、両方に使う仕組みをつくったところが中尾の大きな特徴です。
ダブル・フラッシュ方式で熱水からもう一度蒸気を取り出す
中尾地熱発電所では「ダブル・フラッシュ方式」が採用されています。
地下から取り出した地熱流体には蒸気と熱水が混ざっています。最初に気水分離器で蒸気と熱水を分け、高温の蒸気をタービンへ送ります。
普通なら、ここで残った熱水はそのまま利用することになります。しかし中尾では、高温の熱水を減圧し、さらにもう一度蒸気を発生させます。この「2回目の蒸気」まで発電に利用するのがダブル・フラッシュです。シーエナジーによると、この方式によって発電量を増やせる仕組みになっています。
そして重要なのが、その後です。
発電に使ったからといって、地域が必要としている温泉まで奪うわけではありません。残った熱水は有限会社中尾温泉へ全量供給され、温泉として利用されます。つまり地下資源を「発電→温泉」と段階的に使っています。
温泉街が地熱発電を受け入れた背景に「井戸の維持費」があった
地熱発電と温泉地は、必ずしも最初から相性がいいわけではありません。
発電用の井戸を掘ることで既存の温泉の湯量に影響が出るのではないか――。全国の温泉地で地熱開発を進める際に、こうした不安が出ることがあります。
中尾地区でも温泉は旅館だけのものではなく、生活そのものです。住宅の床暖房や駐車場の融雪などにも利用されてきました。
一方で、温泉を維持するにも費用がかかります。
東海テレビの取材では、中尾地区では温泉成分が配管などに固着するため、井戸や供給設備の管理に年間約1,000万円をかけていたと伝えられています。地熱発電が始まったことで発電事業者側が設備管理を担い、発電に使わない熱水を地域へ供給する形がつくられました。
「地熱発電ができたから温泉が減った」という構図ではなく、発電事業者が蒸気を使い、温泉街は安定した熱水供給を受ける。奥飛騨が地熱発電の事例として注目される理由はここにあります。
奥飛騨では小さな地熱発電所も地域の収入源になっている
奥飛騨の地熱利用は中尾だけではありません。
奥飛騨宝温泉協同組合と竹中工務店が協働する「TAKENAKA奥飛騨地熱発電所」は、既存の温泉井を利用した50kWの小規模発電所です。2021年3月から発電を開始し、発電した電力を売電するとともに、一部を温泉供給設備でも利用しています。竹中工務店によると、年間を通じて95%以上という高い設備利用率を実現しています。
大規模な発電所だけを造るのではなく、すでにある温泉井も活用する。この方式なら地域側も事業に参加しやすくなります。
東海テレビが2023年に取材した時点では、奥飛騨温泉郷で2017年以降に5つの地熱発電所が稼働し、合計で約5,000世帯分の電力を生み出していると報じられていました。
温泉が「宿泊客がお風呂に入るためだけの資源」ではなく、売電、暖房、融雪、養殖などにも利用できる地域資源へ変わっているわけです。
さらに5,000kW級「奥飛騨地熱発電所」の開発も進められてきた
奥飛騨では、さらに大きな地熱開発も計画されてきました。
WIND-SMILEと合同会社奥飛騨ジオエナジーが高山市奥飛騨温泉郷一重ケ根で進めてきたプロジェクトです。
当初計画では地下2,000mまで試験井を掘削し、設備容量5,000kWのバイナリー式地熱発電を目指す内容でした。バイナリー発電とは、地熱そのものの蒸気でタービンを回すのではなく、温泉より低い温度で沸騰する別の媒体を加熱して発電する方式です。
2024年のWIND-SMILE資料でも、奥飛騨プロジェクトはFIT認定と系統連系接続契約を取得した開発案件として掲載されています。
2023年の現地取材では約2,000mの掘削を計画し、地下1,500m付近ですでに約240℃に達していたと石田清一さんが語っています。
奥飛騨の地下にどれほど大きなエネルギーが眠っているのかを象徴するプロジェクトです。
地熱発電が「観光資源」になっているのも面白い
中尾地熱発電所では、発電所そのものを見学できます。
公式サイトにはオンライン見学予約ページが用意されていて、観光客が地熱発電の仕組みや地域との共存について学べる施設になっています。PR館も整備されています。
これは地域活性化を考えるうえで意外に重要です。
発電所は通常、観光客がわざわざ訪れる場所ではありません。しかし奥飛騨では「温泉がどのように電気になるのか」という体験自体が観光コンテンツになります。
温泉に入り、北アルプスを観光し、その温泉を生み出している地下エネルギーについて学ぶ。地熱発電が新しい奥飛騨観光の入口にもなっています。
実用情報|中尾地熱発電所の場所と見学方法
中尾地熱発電株式会社の所在地は岐阜県高山市奥飛騨温泉郷中尾です。見学は公式サイトの予約ページから申し込みできます。
ただし、設備点検などによって見学できない期間があります。特に2026年9月については、公式サイトが定期点検のため見学できない期間として案内しています。旅行の日程に組み込む場合は、その月の「見学予約情報」を確認してから向かうのがおすすめです。
奥飛騨温泉郷は平湯・福地・新平湯・栃尾・新穂高という5つの温泉地から構成されています。中尾は新穂高温泉エリアにあり、周辺の温泉宿と組み合わせて訪れやすい場所です。
まとめ
奥飛騨温泉郷の地熱発電が注目される理由は、単に再生可能エネルギーで電気をつくっているからではありません。
中尾地熱発電所では地下から取り出した蒸気を発電に利用し、残った熱水を温泉街へ供給しています。さらに小規模なバイナリー発電、床暖房、融雪、そして温泉熱を利用した養殖へと用途が広がってきました。
温泉と発電を奪い合うのではなく、ひとつの地下資源を何度も使う。その仕組みを地域の収入や観光につなげているところに、奥飛騨の面白さがあります。
『午後LIVE ニュースーン』を見て「奥飛騨の地熱発電所はどこ?」「温泉がなくならないの?」と気になった人にとって、中尾地熱発電所はまさにその答えが見える場所です。
参考リンク
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