映画『それでもボクはやってない』の原点になった2年間の闘い
2026年9月11日放送の『金曜ミステリークラブ!!!』では、「映画にもなった痴漢冤罪事件」「無実を証明するため2年戦った男性と家族」が紹介されます。公開されている事件記録と照合すると、この条件に当てはまるのが西武新宿線痴漢冤罪事件で逆転無罪となった矢田部孝司さんです。冤罪犠牲者の会も、この事件を周防正行監督『それでもボクはやってない』の原点と紹介しています。
この記事でわかること
- 矢田部孝司さんが巻き込まれた事件の経緯
- 一審有罪から逆転無罪になるまでの2年間
- 控訴審で重要になった再現ビデオと接見メモ
- 映画『それでもボクはやってない』との関係と現在
矢田部孝司が巻き込まれた西武新宿線痴漢冤罪事件
事件が起きたのは2000年12月5日です。
矢田部孝司さんは西武新宿線の快速電車内で痴漢をしたとして逮捕され、強制わいせつ罪で起訴されました。当時は前科のない会社員でしたが、逮捕後は約3か月にわたり勾留されています。
ここから始まった裁判は、矢田部さん本人だけでなく家族の生活も大きく変えることになります。
一審では懲役1年2か月の実刑判決
無実を訴えていた矢田部さんに対し、2001年12月、東京地方裁判所は懲役1年2か月の実刑判決を言い渡しました。
事件からすでに約1年。
否認を続けながら一審で有罪になったことで、家族にとっても非常に厳しい状況になりました。
しかし、この判決で終わったわけではありません。弁護側は東京高裁へ控訴し、裁判の組み立てそのものを見直します。
逆転無罪につながった「犯人同定」の争い
控訴審でポイントになったのが、弁護方針の変更でした。
一審では事件そのものが起きていないという方向から争っていましたが、控訴審では「痴漢被害があったとしても、その人物が矢田部さんだったのか」という犯人同定の問題へ重点を移しました。
そこで提出されたのが、車内状況を再現したビデオや、逮捕直後に弁護士が聞き取った接見メモなどです。
事件直後の本人の説明を記録した資料は、時間が経過してから作られた供述とは性質が異なります。
さらに実際の電車内の位置関係を再現することで、「申告された状況が物理的に成立するのか」という点を具体的に検討できるようになりました。
2002年12月に東京高裁が逆転無罪
事件発生からちょうど約2年後となる2002年12月、東京高等裁判所は一審判決を破棄し、矢田部さんに無罪を言い渡しました。
一審有罪からの逆転無罪です。
『金曜ミステリークラブ!!!』が予告している「2年戦った男」という期間とも一致します。
ここで大切なのは、痴漢被害そのものを軽く見る話ではないということです。痴漢は重大な被害を生む犯罪です。その一方、刑事裁判では「犯罪があったこと」と「被告人がその犯人であること」は、それぞれ証拠に基づいて慎重に判断されなければなりません。
矢田部さんの裁判は、その難しさが表れたケースになりました。
妻・あつ子さんと家族も一緒に闘った
この事件が「本人だけの裁判」ではなかったことは、2006年に刊行された書籍からもわかります。
タイトルは『お父さんはやってない』。
著者は矢田部孝司さんと妻の矢田部あつ子さんです。国立国会図書館の書誌では、300ページの本として太田出版から2006年12月に刊行されたことが確認できます。
家族の視点から、逮捕、勾留、裁判、そして逆転無罪までをたどった記録です。
番組予告でも「男と家族の壮絶な物語」とされている理由が、ここにつながります。
『それでもボクはやってない』との関係
2007年公開の周防正行監督作品『それでもボクはやってない』は、満員電車で痴漢に間違われた青年が刑事裁判を闘う物語です。
矢田部さんの事件をそのまま映画化した作品というより、周防監督が刑事裁判を取材するうえで重要な原点となった事件と見るのが正確です。
冤罪犠牲者の会は矢田部さんを「周防正行監督の『それでもボクはやってない』の原点である西武新宿線痴漢冤罪」の当事者として紹介しています。
さらに『お父さんはやってない』の資料紹介には、周防監督による「この事件と出会わなければ、僕の映画は生まれなかった」という趣旨の紹介も掲載されています。
番組が「映画にもなった」と表現している背景はここにあります。
矢田部孝司は現在も冤罪問題に関わっている
逆転無罪で終わったあと、矢田部さんは事件を過去のものとして終わらせたわけではありません。
2026年現在、冤罪犠牲者の会の代表者の一人として名前が掲載されています。同会は再審法改正、人質司法の解消、冤罪問題についての啓発などを活動方針に掲げています。
2026年に公表された冤罪被害者共同声明でも、「西武新宿線痴漢事件・無罪確定者、冤罪犠牲者の会共同代表」として矢田部さんの名前が確認できます。
事件から20年以上が経過した現在も、自身の経験を社会へ伝える活動を続けているわけです。
『お父さんはやってない』を読む方法
事件について本人と家族の視点から最も直接的に知る資料が『お父さんはやってない』です。
国立国会図書館サーチでは全国の所蔵図書館を検索できます。ISBNは978-4-7783-1046-2。古い本なので新品の流通状況は変わりますが、図書館や中古書籍も含めてタイトルとISBNで探すと見つけやすくなります。
まとめ
矢田部孝司さんは2000年12月、西武新宿線で痴漢をしたとして逮捕されました。
一審では懲役1年2か月の実刑判決。しかし控訴審では、再現ビデオや逮捕直後の接見メモなどを使って犯人同定の問題を争い、2002年12月に逆転無罪を勝ち取りました。
その2年間を支えた家族との記録が『お父さんはやってない』であり、この事件との出会いが周防正行監督の映画『それでもボクはやってない』へつながっていきます。
現在は冤罪犠牲者の会の共同代表として活動していることまで含めると、『金曜ミステリークラブ!!!』の放送だけでは収まりきらない、その後の人生まで続く物語です。
参考リンク
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