上洛殿の金色の輝きをよみがえらせた名古屋の錺金具職人
2026年9月12日放送の『新プロジェクトX 幻の国宝 名古屋城本丸御殿 〜完全復元に挑む〜』では、「江戸期最高峰の巨大錺金具」に挑んだ親子職人の物語も紹介されます。
名古屋城本丸御殿の錺金具復元を調べると、実際に第2期・第3期工事へ参加し、帳台構金具と上洛殿の長押金具を担当した名古屋の会社「ノヨリ」が確認できます。初代の野依稔さんと2代目の野依克彦さんはいずれも尾張仏具の伝統工芸士です。
番組が紹介する「親子職人」がこの2人を指すかは放送前の公開情報だけでは断定しませんが、本丸御殿の重要な錺金具を実際に復元した職人系譜として、非常に注目したい存在です。
この記事でわかること
- 錺金具とはどんな装飾なのか
- ノヨリが名古屋城本丸御殿で担当した場所
- 野依稔さん・野依克彦さんの親子による技術継承
- 古写真や拓本から金具を再現する難しさ
本丸御殿を彩る「錺金具」は単なる飾りではない
「錺金具」は「かざりかなぐ」と読みます。
ノヨリの公式説明では、仏具や神具、祭礼具などを華やかに、荘厳に飾る装飾金具を錺金具と呼びます。「錺」という字自体が、金で美しく飾る意味を持つ日本独自の文字です。
名古屋城本丸御殿では、釘を隠す六葉、襖の引き手、長押や帳台構を飾る大きな金具など、部屋の格式に応じてさまざまな金具が使われています。
安藤ハザマの工事記録でも、格式が上がるほど六葉の装飾が複雑になり、上洛殿では装飾そのものが空間の格を示す重要な要素だったことが分かります。
ノヨリは帳台構金具と上洛殿の長押金具を担当
有限会社ノヨリの公式サイトには、2014年から名古屋城本丸御殿復元工事の第2期・第3期に参加したことが明記されています。
担当したのは「帳台構金具」と「上洛殿の長押金具」です。
帳台構は、上段之間など格式の高い座敷に設けられる装飾性の高い構えです。名古屋城公式サイトでも上洛殿の見どころとして帳台構の金具が写真付きで紹介されています。
また名古屋城には戦前の金具の拓本まで保存されています。上洛殿の帳台構について、扉の飾金具、引手金具、釘隠金具などを詳細に記録した昭和実測図が現在も公開されています。
焼けてしまった金具を想像で新しくデザインしたのではなく、残された輪郭や文様を読み解きながら元の姿へ近づけていったわけです。
初代・野依稔さんから2代目・野依克彦さんへ
ノヨリは1970年、野依稔さんが「野依神仏錺金具店」として独立開業したことから始まりました。
野依さんは尾張仏具製造を修業した後、寺院用の錺金具を中心に、一品物の受注制作を続けてきました。
その家業を継いだのが2代目の野依克彦さんです。1988年に有限会社ノヨリとして法人化し、現在は克彦さんが社長を務めています。
初代の稔さんと2代目の克彦さんは、ともに尾張仏具の伝統工芸士。稔さんは2021年春の叙勲で瑞宝単光章を受章しています。
さらに2021年には野依祐月さんが後継者として加わり、現在は親子3代で事業を受け継いでいます。
名古屋城という400年前の建物を復元する仕事の裏側に、現代でも3世代にわたって続く職人一家があるのは興味深いところです。
伝統だけではなくCADやNC彫刻機も使う
「伝統工芸」と聞くと、昔ながらの道具だけで作っている印象があります。しかしノヨリは、新しい技術も積極的に導入しています。
公式サイトによると、図面作成にはCAD、加工の一部にはNC彫刻機を取り入れています。一方で、鍛金、七宝、高肉彫、象嵌などの伝統的・装飾的な技法も組み合わせています。
ここが本丸御殿復元とよく似ています。
建物側も旧来の材料・工法を基本としながら、耐震性など必要な部分には現代技術を使いました。職人の世界でも、昔の技を守ることと、現代の道具を拒むことは同じではありません。
最終的に400年前の姿へ近づけるため、最適な方法を選ぶ。その姿勢が復元全体を支えています。
金具の復元では七宝の色まで100回以上試作した
本丸御殿の装飾品は、形が似ていれば終わりではありません。
安藤ハザマの記録では、上洛殿に使われた七宝付きの引き手金具について、古い資料の色味に近づけるため七宝職人が100回以上試作を重ねています。さらに、江戸期の製法では生じていた気泡まで意図的に再現したとされています。
本丸御殿内では、七宝付き引き手を92個制作したという記録もあります。
新品として「きれいな金具」を作るだけなら、気泡は失敗として消したくなります。しかし復元では、その不完全さまで歴史的な特徴になります。
ここが新作工芸と復元工芸の大きな違いです。
上洛殿の錺金具が特別に豪華な理由
上洛殿は1634年、3代将軍・徳川家光が京都へ向かう途中で名古屋城へ宿泊するのに先立って増築されました。
そのため本丸御殿の中でも最も格式が高く、室内には特に豪華な障壁画、天井、欄間、錺金具が集中しています。
上洛殿では、33歳だった狩野探幽が手掛けた障壁画も使われています。
金具だけを単体で見ると装飾品ですが、ヒノキの木肌、金地の障壁画、黒漆、金箔、彫刻欄間と組み合わさったとき、将軍を迎える空間そのものが完成します。
テレビを見た後に現地へ行くなら、大きな襖絵だけを見るのではなく、柱や長押に付いた小さな金具まで目を向けると、本丸御殿の見え方がかなり変わります。
ノヨリの所在地と現在の仕事
有限会社ノヨリは名古屋市中区上前津1丁目3-22に所在します。
現在も神仏装飾金具の製造、仏壇・仏具、アクセサリー雑貨などを手掛けています。全国の寺院や文化財だけでなく、山車や神輿なども制作対象です。
名古屋城のためだけに存在した工房ではなく、尾張仏具の技術を日常的に継承している会社だからこそ、歴史的建造物の復元にも対応できたことが分かります。
まとめ
名古屋城本丸御殿の豪華さを決定づけているものの一つが、金色に輝く錺金具です。
その復元に参加した有限会社ノヨリは、2014年から第2期・第3期工事に携わり、帳台構金具と上洛殿長押金具を担当しました。
初代・野依稔さん、2代目・野依克彦さんはともに尾張仏具の伝統工芸士。現在は3代目も加わっています。
『新プロジェクトX』をきっかけに本丸御殿を訪れるなら、障壁画や天井だけでなく、ぜひ長押や襖の金具を近くから見てみてください。数センチから数十センチの金具の中にも、復元プロジェクトの途方もない手間が詰まっています。
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