コメだけではない、河川や水路まで脅かすナガエツルノゲイトウ
2026年9月15日放送の『クローズアップ現代』では、田畑や河川で急速に広がる外来植物ナガエツルノゲイトウが取り上げられます。
南米原産の多年草で、わずかな植物片から再生する強さを持ち、水田では稲の生育や収穫作業を妨げます。さらに河川や水路を覆うほど増えると、取水・排水設備を詰まらせ、洪水や浸水の危険を高めることもあります。
問題をさらに難しくしているのが、単純に「刈ればなくなる植物」ではないことです。むしろ不用意な草刈りによって茎を細かくしてしまうと、その断片から新しい株が増える可能性があります。
この記事でわかること
- ナガエツルノゲイトウの特徴と見分け方
- わずか1cmから再生し、駆除が難しい理由
- コメ農家や河川・水路に起きる被害
- ドローンやAI、除草剤を使った最新の対策
ナガエツルノゲイトウは1cmの断片からでも再生する
ナガエツルノゲイトウは、南アメリカ原産のヒユ科の多年草です。水路、河川、ため池、水田など水辺を中心に生育しますが、乾燥にも比較的強く、畦畔や農道、畑など陸上にも入り込みます。
最大の特徴は、非常に強い栄養繁殖能力です。
農研機構の水田向け防除マニュアルでは、日本国内の個体は主として節を含む切断茎や根の断片から増殖し、大きさ1cmの断片からでも再生できると説明されています。日本では種子をつけた個体は確認されておらず、ちぎれた植物体そのものが次の個体をつくる仕組みです。
見分けるポイントとしては、次の特徴があります。
- 葉は節から向かい合うように2枚ずつ出る
- 葉先はややとがる
- 茎の内部がストローのように空洞になっている
- 春から秋に白い球状の花をつける
- 花は葉の付け根から1~4cmほどの柄を伸ばした先につく
ただし、花がない時期にはツルノゲイトウなど似た植物との判別が難しくなります。
駆除が難しい最大の理由は「刈ること」が拡散につながる点
普通の雑草なら、伸びた部分を刈り取れば一時的にでも勢いを弱められます。
ところがナガエツルノゲイトウの場合、刈払機などで細かく切断すると、再生可能な茎の断片を周囲へ飛散させることがあります。
水辺ではさらに厄介です。ちぎれた茎が水に浮いて下流へ運ばれ、別の水路や田んぼへ流れ着けば、そこで発根して新しい群落をつくる可能性があります。
農業機械による拡散にも注意が必要です。発生している水田で作業したトラクターやコンバインなどに植物片が付着したまま別のほ場へ移動すると、人間の農作業そのものが分布拡大につながりかねません。
つまり重要なのは、単に「たくさん抜く」ことではありません。
切断片をつくらない、流さない、他の場所へ運ばないことまで含めて防除する必要があります。
水田では稲と競合し、収穫作業まで妨げる
ナガエツルノゲイトウが深刻視される大きな理由が、コメ生産への影響です。
農研機構の資料では、2025年2月時点で国内30都府県への侵入が確認され、そのうち14府県では水田への侵入が確認されていました。
水田に入り込むと、単に「あぜに雑草が増える」という問題では済みません。
ナガエツルノゲイトウが稲の間まで伸びることで、光や養分などをめぐって作物と競合します。また大量に繁茂した植物が稲や農業機械に絡み、収穫時の作業性を低下させることもあります。
さらに厄介なのが水田への入口です。
河川やため池、水路にナガエツルノゲイトウが繁殖すると、かんがい用水に植物片が混ざり、水口から水田へ入り込むルートができます。
1枚の田んぼだけを駆除しても、上流の水路に群落が残っていれば再び流れ込むため、農家単独では解決しにくい問題になっています。
洪水リスクにつながるのは排水機能をふさぐため
農業被害と並んで警戒されているのが、水害への影響です。
ナガエツルノゲイトウは水面に厚いマット状の群落をつくります。その群落が大雨や増水によってまとまって流されると、水路や排水口、ポンプ場のスクリーンなどへ大量に漂着します。
千葉県の印旛沼では、洪水時に群落が排水施設へ流れ着き、除去作業が追いつかず、一時的に本来の排水能力を確保できない事態も報告されています。
そのため「植物が直接洪水を起こす」というより、
大量繁茂 → 水路や排水設備を閉塞 → 大雨時の排水能力低下 → 浸水・洪水リスク上昇
という流れで考えると分かりやすいでしょう。
水田を守る問題と地域の治水問題が、同じ植物によってつながっているのです。
駆除には億単位の費用がかかる地域もある
いったん大規模な群落が形成されると、防除費用も急激に膨らみます。
内閣府の研究開発資料では、ナガエツルノゲイトウなどの侵略的外来種に苦しむ自治体が数億円規模の予算を投じていることが課題として示されています。
過去には補正予算だけでも、
- 茨城県:約9900万円
- 千葉県:約1億900万円
- 兵庫県:約4000万円
が追加された例が示されました。
さらに千葉県の印旛沼水系では、農業水路の防除に1kmあたり1000万円以上を要するケースも示されています。
2026年度には千葉県が特定外来生物の調査・駆除などに約6億円を計上しており、一度広い水系へ定着すると、継続的に大きな費用が必要になることが分かります。
だからこそ、完全に広がってから大量駆除するよりも、侵入直後の小さな群落を発見して抑えることが重要になります。
ドローンとAIで上空から群落を発見する技術が進んでいる
人の目だけで広大な河川や農業水路を確認するのには限界があります。
そこで開発が進んでいるのが、ドローンと画像識別AIを組み合わせた監視システムです。
国のBRIDGE事業では、ドローンで撮影したナガエツルノゲイトウの個体や群落を学習させ、画像から自動的に識別するAIが開発されています。
2026年公表の評価資料では、ドローン空撮と画像識別AIを使ったモニタリングのプロトタイプが整備され、発生場所を広域かつ省力的に調べる研究が進んでいます。
人が入りにくい水路でも上空から確認できれば、小さい群落の段階で発見できる可能性があります。
今後は、
早期発見 → ピンポイント防除 → 再発を監視
という形へ変えていくことが期待されています。
水田では効果が確認された除草剤体系もある
ナガエツルノゲイトウは「薬をまけば簡単に消える」という植物でもありません。
それでも水田では研究が進み、特定の成分を時期を分けて使用することで高い防除効果を得る体系が示されています。
農研機構や千葉県が紹介している方法では、発芽・再生の初期に効果を持つ成分と、生育した株に効果を持つ成分を組み合わせて使用します。
一方、河川や水路では農地とは事情が異なります。
水中や周辺生態系への影響も考慮しなければならないため、除草剤をどこでも自由に使用できるわけではありません。
そこで現在は、対象植物だけに薬剤を処理する方法や、薬剤の飛散を抑える技術、環境中での薬剤の残留・分解を調べる研究も進められています。
大量の薬剤を一面に散布するのではなく、発生地点を正確に見つけて必要な場所だけを処理することが、次世代の防除の方向になっています。
見つけても勝手に持ち帰らない
ナガエツルノゲイトウは外来生物法の特定外来生物です。
そのため、生きた個体については原則として栽培、保管、運搬、譲渡、野外へ放つことなどが規制されています。
水田や水路で疑わしい植物を見つけた場合は、不用意に刈払機で細かくしたり、生きた植物を袋に入れて別の場所へ運んだりせず、自治体や農業関係機関などに確認するのが安全です。
特に避けたいのは、
- 刈払機で細かく切断する
- 切れた茎を水路へ落とす
- 農機に付着したまま別の田へ移動する
- 生きた植物を自己判断で持ち帰る
といった行為です。
駆除するつもりの行動が、逆に分布を広げる原因になる点が、この外来植物の難しさです。
まとめ
ナガエツルノゲイトウは、南米原産の特定外来生物で、わずか1cmほどの植物片からでも再生できる非常に強い繁殖力を持っています。
水田では稲の生育や収穫作業を妨げ、河川や水路では大群落が排水施設などをふさぐことで、水害リスクを高める恐れがあります。
そして一度水系全体へ広がると、人力による駆除だけでは追いつかず、自治体が億単位の費用を投じるほどの問題になります。
現在は、従来の手取りや重機による除去だけでなく、ドローンとAIによる早期発見、効果的な除草剤体系、ピンポイント処理など新しい対策が進んでいます。
完全に広がってから取り除くのではなく、「早く見つけ、細かく拡散させず、初期段階で抑える」ことが最も重要な植物と言えそうです。
参考リンク
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