認知症になる前のMCIで気づけば「先手」を打てる
2026年10月1日放送のNHK「あしたが変わるトリセツショー」では、「認知症に先手を打つ!MCIのトリセツ」と題し、認知症と健常な状態の中間にあたるMCI(軽度認知障害)が特集されました。
大きなポイントは、MCIの段階で変化に気づき、原因を調べ、治療や生活改善につなげることです。
単なる「年齢によるもの忘れ」と見過ごさず、「ヒントをもらっても思い出せない」「予定そのものを忘れる」「新しいことを覚えにくくなった」といった変化を早めに拾うことが、認知機能を維持するための重要な一歩になります。
この記事でわかること
- MCIと一般的なもの忘れを見分けるポイント
- MCIを引き起こすアルツハイマー病以外の原因
- アルツハイマー病によるMCIで行われる最新治療
- 運動・食事・人との交流・電話など家庭でできる対策
MCIは認知症ではなく「健常と認知症の中間」の状態
MCIとは「Mild Cognitive Impairment」の略で、日本語では「軽度認知障害」と呼ばれます。
認知症そのものではないものの、記憶力や注意力、言語能力などの認知機能に変化が現れている状態です。
番組で特に取り上げられたのが「少し前の出来事を覚えておく力」の変化でした。
MCIの段階で適切に対応できれば、認知症への進行を遅らせたり、認知機能を維持したり、状態によっては改善につながったりする可能性があります。
「認知症になってから対策する」のではなく、その前段階で気づくことが重要というわけです。
最大の気づきポイントは「ヒントを出しても思い出せない物忘れ」
年齢を重ねれば、誰でも「あの人の名前が出てこない」「何を取りに来たのか忘れた」といった経験は増えてきます。
そこで重要になるのが、ヒントを出されたときに思い出せるかどうかです。
一般的な物忘れでは、きっかけやヒントを与えられることで「ああ、それだった」と思い出せることがあります。
一方、MCIでは、そもそも情報が十分に保持されておらず、ヒントをもらっても思い出せないケースがあります。
記憶を保持する重要な役割を担う海馬は、アルツハイマー病などの影響を受けやすいため、比較的早い段階からこうした物忘れが現れることがあります。
予定忘れ・メールの返信忘れ・新しい家電もサインになる
東京医科大学の清水聰一郎教授が挙げたMCIに気づくポイントは、物の名前が出ないといった単純な変化だけではありません。
日常生活の中では、次のような変化にも注意が必要です。
- ヒントがあっても出来事を思い出せない
- 約束や予定そのものを忘れる
- メールやメッセージを返信すること自体を忘れる
- 新しく買った家電などの使い方を覚えにくくなる
- 言葉が以前より出にくくなる
- 場所や位置関係を把握しにくくなる
- 以前より無気力になった
大切なのは、自分だけで判断しないことです。
「最近ちょっと忘れっぽい」と感じたら、家族や身近な人に「前と比べて変わったところはない?」と聞いてみる方法があります。
周囲からも変化を指摘されるようなら、早めに医療機関へ相談することが勧められます。
MCIの原因はアルツハイマー病だけではない
MCIかもしれないと感じたとき、非常に重要なのが「なぜ認知機能が低下しているのか」を調べることです。
認知機能低下には、さまざまな原因があります。
代表的なものには、
- アルツハイマー病
- 脳血管障害や脳梗塞
- レビー小体病
- 前頭側頭葉変性症
- 甲状腺機能低下症など脳以外の病気
- ビタミンなどの栄養素不足
- 薬の副作用
などがあります。
つまり、「物忘れが増えた=アルツハイマー病」と決めつけることはできません。
栄養不足や甲状腺の病気、薬の影響など、原因に対する治療や対応によって改善が期待できるケースもあります。
だからこそ、MCIの段階で医療機関につながり、原因を確認する意味があります。
アルツハイマー病によるMCIでは脳内アミロイドβを取り除く治療も
MCIの原因として多いものの1つがアルツハイマー病です。
現在は、アルツハイマー病によるMCIや軽度のアルツハイマー型認知症の一部を対象に、脳内に蓄積するアミロイドβを取り除き、病気の進行を遅らせることを目的とした治療が行われています。
対象になるのは、単に「物忘れがある人」ではありません。
- アルツハイマー病によるMCIまたは軽度認知症である
- 脳内にアミロイドβが蓄積していることが確認されている
- 認知機能など一定の治療条件を満たしている
といった確認が必要になります。
誰でも受けられる治療ではなく、専門的な診断と検査を受けたうえで医師が適応を判断します。
番組には、MCIと診断された後、その原因がアルツハイマー病だと分かった男性も登場しました。
男性はアルツハイマー病の進行を遅らせる治療を受けながら生活習慣の改善にも取り組み、診断から4年たった時点でもMCIの状態を維持していました。
「早く原因を知ること」が、その後の選択肢を増やすことにつながった事例です。
運動・脳トレ・食事・生活習慣病管理を組み合わせる
認知機能を守るためにできることは、薬による治療だけではありません。
番組では生活の中で取り組める対策として、
- 運動
- 頭を使う認知トレーニング
- 食生活の改善
- 高血圧や糖尿病など生活習慣病の管理
- 人との交流
が紹介されました。
どれか1つだけを行えばよいというより、複数の要素を日常生活の中で組み合わせていくことがポイントです。
たとえば、散歩をしながら人と話す、地域の活動へ参加する、買い物や料理を続けるといった生活そのものが、身体・頭・社会とのつながりを同時に保つ機会になります。
特に重要なのが「人との交流」
番組が生活改善の中でも強調していたのが、人との交流です。
認知機能は、単に脳トレをしていれば維持できるというものではありません。
人と話すためには、相手の話を聞き、意味を理解し、自分が伝えたい内容を考え、言葉を選んで返事をする必要があります。
会話そのものが複数の認知機能を使う活動になります。
また、人とのつながりは孤独やうつ状態を防ぐ意味でも重要です。
番組では、うつ状態にある人は認知症になるリスクが約2倍になるという研究も紹介されました。
高血圧や糖尿病を管理するのと同じように、精神面や社会的なつながりにも目を向けることが認知症対策につながります。
家族や友人ができる身近な対策は「電話をすること」
離れて暮らす親や家族に対して、すぐにできる方法として紹介されたのが電話です。
番組では、家族や友人ができることとして「1日1回の電話」が紹介されました。
10分程度の電話による交流を行った研究では、
- 孤独感が19%減少
- うつ症状が29%減少
したという結果が取り上げられています。
大切なのは、難しい認知トレーニングをさせることではありません。
「今日何してた?」
「ご飯は何を食べた?」
「最近どう?」
といった普段の会話でも、人とつながるきっかけになります。
番組では黒沢かずこさんも、久しぶりに母親へ電話をかけていました。
離れて暮らす親がいる家庭にとって、「電話する」という非常にシンプルな行動も見直したいポイントです。
本人が受診を嫌がる場合は地域包括支援センターへ相談できる
「最近、親の物忘れが増えた。でも病院へ行こうと言っても嫌がる」
こうしたケースで頼りになるのが地域包括支援センターです。
地域包括支援センターは高齢者の生活や介護、医療などについて相談できる地域の窓口で、認知症と診断される前の段階でも相談できます。
MCIや認知症が心配な場合には、
- 認知症に詳しい医療機関の情報
- 必要な医療・介護サービスへのつなぎ
- 本人が受診を拒む場合の相談
- 認知症カフェ
- 地域の交流活動やコミュニティー
などについて相談できます。
本人が「自分は大丈夫」と受診を拒んでいる場合でも、家族側から相談できるのが大きなポイントです。
番組では岐阜県安八町や静岡県焼津市などの地域で行われている支援や交流の場も紹介されました。
認知症への対応を家族だけで抱え込むのではなく、地域の専門職につなげることも「早めの対策」の1つです。
MCI対策でまず実践したいこと
「もしかしたら」と感じたときに、すぐ始められることを整理すると次のようになります。
- ヒントを出しても思い出せない物忘れが増えていないか確認する
- 予定やメール返信を忘れることが増えていないか振り返る
- 家族や身近な人に以前との変化を聞いてみる
- 変化を指摘されたら医療機関へ相談する
- 運動習慣を続ける
- バランスのよい食事を意識する
- 高血圧や糖尿病を適切に管理する
- 人と話す機会を減らさない
- 離れて暮らす家族には電話をする
- 受診や生活について困ったら地域包括支援センターへ相談する
重要なのは、MCIを自分で診断しようとしないことです。
物忘れや認知機能低下には複数の原因があるため、気になる変化が続く場合は医療機関で原因を確認することが第一歩になります。
まとめ
MCIは、認知症そのものではなく、健常な状態と認知症の中間にあたる軽度認知障害です。
「あしたが変わるトリセツショー」で特に覚えておきたいポイントは、「ヒントをもらっても思い出せない物忘れ」です。
さらに、予定を忘れる、メールの返信を忘れる、新しい家電の使い方を覚えにくくなるなど、日常生活の小さな変化がサインになることもあります。
そしてMCIに気づいた後は、アルツハイマー病だけでなく、脳血管障害、栄養不足、甲状腺の病気、薬の副作用など原因を調べることが重要です。
アルツハイマー病によるMCIでは新しい治療の選択肢も登場していますが、それと同じくらい大切なのが、運動、食事、生活習慣病の管理、そして人との交流です。
なかでも家族や友人との電話は今日から始められます。
「まだ認知症ではない段階」で変化に気づき、医療、生活改善、地域の支援につなげる。それが今回のMCIのトリセツで示された「認知症に先手を打つ」という考え方です。
参考リンク
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