羊の皮が「紙」へ変わる中世ヨーロッパの記録媒体・羊皮紙
2026年10月4日放送の日本テレビ系「所さんの目がテン!」では、中世ヨーロッパで重要な記録媒体となった「羊皮紙」を一から手作りする企画の後編が放送されます。羊の皮から毛や脂肪を取り除き、張る・削る・磨く工程を経て羊皮紙を完成させ、さらにダチョウやガチョウの羽から羽ペン、虫こぶと鉄から黒いインクまで再現します。
「紙」という名前が付いていますが、植物繊維から作る一般的な紙とはまったく別物です。羊皮紙の本体は動物の皮に含まれるコラーゲン。皮をなめして革にするのではなく、濡れた状態で強く張りながら薄く削り、筆記できる平らな素材へ変えていきます。
この記事でわかること
- 羊皮紙が何からできているのか
- 羊の皮を羊皮紙へ変える具体的な工程
- 羽ペンと没食子インクが作られる仕組み
- 羊皮紙が中世ヨーロッパの本に使われた理由
羊皮紙の正体は薄く伸ばした動物皮のコラーゲン
羊皮紙は、動物の皮を処理して作る筆記材料です。
名称から「羊の皮だけで作る紙」と受け取りやすいものの、実際には羊だけでなく、ヤギや仔牛などの皮も使われてきました。Getty Research Instituteも、羊皮紙を仔牛・羊・ヤギなどの皮を石灰処理し、脱毛、削り、張った状態で乾燥させて作る素材と定義しています。
そして羊皮紙の中心を構成するのがコラーゲンです。
古代写本「シナイ写本」の保存研究でも、羊皮紙は天然タンパク質であるコラーゲンから構成されると説明されています。
つまり羊皮紙作りでは、皮そのものを別の物質へ変えるわけではありません。
皮から、
- 毛
- 脂肪
- 肉片
- 不要な組織
を取り除き、コラーゲンを主体とする皮の層を薄く均一に整えていきます。
番組で「羊皮紙の正体は羊のコラーゲンを薄く引き延ばしたもの」と紹介されるのは、まさにこの構造を指しています。
羊皮紙は石灰に浸けて毛を抜き、木枠へ張って削る
羊皮紙作りは、動物の皮を乾燥させるだけでは完成しません。
伝統的な製法の基本的な流れは次の通りです。
- 原皮を洗う
- 石灰水へ浸ける
- 毛を取り除く
- 肉や脂肪を取り除く
- 木枠へ強く張る
- 表面を刃物で削る
- 張力を保ちながら乾燥させる
- 軽石などで表面を整える
Getty Museumによると、羊・ヤギ・仔牛などの皮を数日間石灰水へ浸して毛を抜けやすくし、その後木枠へ強く張ります。
張った皮から残った毛や肉を削り落とし、湾曲した刃物を使って希望する厚さになるまで少しずつ薄くしていきます。最後は軽石などで研磨し、インクや絵具を載せやすい表面へ仕上げます。
日本でも筑波大学の羊皮紙制作企画で、
- 原皮を洗う
- 約2日間水へ浸す
- 石灰溶液へ約1週間浸す
- 毛を抜けやすくする
という工程が実践されています。
現代のコピー用紙のように工場で連続生産できる素材とは違い、1枚を完成させるだけでもかなりの手間がかかります。
「引っ張りながら乾かす」ことが羊皮紙を生む
羊皮紙作りで特に重要なのが、木枠に張った状態で乾燥させる工程です。
普通の皮をそのまま乾かすと、縮んだり丸まったりします。
羊皮紙では四方から強く引っ張って張力をかけ、濡れた皮を削りながら乾燥させます。乾燥が進むたびに張り具合を調整し、削る作業を繰り返すことで、薄く平らで強度のある筆記素材になります。
ここが、柔軟な「革」を作る工程との大きな違いです。
完成した羊皮紙をよく見ると、現代の紙にはない痕跡も残っています。
- 毛穴
- 毛が生えていた側
- 肉側
- 皮本来の色むら
- 削った跡
などです。
Getty Museumの所蔵資料でも、完成した羊皮紙に動物の毛穴が残っている例が紹介されています。
まったく均質な工業製品ではなく、「かつて動物の皮だった」という痕跡そのものが1枚ごとの個性になります。
軽石で磨いて文字や絵を描ける表面へ仕上げる
毛と脂肪を取り、薄く削っただけでは、まだ完成ではありません。
表面を軽石などで磨き、筆記に適した状態へ調整します。
2026年10月4日の「所さんの目がテン!」でも、毛と脂肪を除去した羊皮をナイフと軽石でさらに整える工程が扱われます。
中世の写本は文章を書くだけでなく、美しい装飾や絵を描くものも多く作られました。
そのため羊皮紙には、
「文字を書ける」
だけでなく、
「細かな線を引ける」
「絵具を載せられる」
「金などによる装飾ができる」
といった性能も求められます。
中世ヨーロッパの写本製作では、羊皮紙を作った後に文字を書き、彩色を行い、最後に製本するという流れで1冊の本が作られていました。
羽ペンはガチョウなど大型鳥の羽から作られた
羊皮紙が完成したら、次に必要になるのが筆記具です。
番組ではダチョウやガチョウの羽から羽ペンも手作りします。
羽ペンは、鳥の羽をそのままインクへ浸して書くわけではありません。
羽軸の太い部分を利用し、先端を斜めに切って形を整え、インクを保持しながら文字を書けるペン先に加工します。
イギリス議会が紹介する「マグナ・カルタ」の制作資料でも、筆記者は大型の鳥、一般的にはガチョウの羽の太い部分から作った羽ペンを使っていたと説明されています。
現代の万年筆やボールペンとは違い、ペン先そのものを自分で削り出す筆記具です。
削り方によって線の幅や書き味も変わるため、羊皮紙だけでなく羽ペン作りにも職人の技術が必要でした。
黒い文字を生んだ「没食子インク」
さらに番組では、虫こぶと鉄を利用した黒いインクも作ります。
これは一般に「没食子インク」「鉄胆インク」「iron gall ink」などと呼ばれる歴史的なインクです。
原料になる「虫こぶ」は、植物に昆虫などが刺激を与えることで生じる組織です。
マグナ・カルタの制作でも、オークの木にできた虫こぶを砕き、水などと混ぜ、さらに鉄成分やアラビアゴムなどを加えて青黒いインクを作っていました。
書いた直後から年月を経ることで色合いも変わります。
歴史的な文書で文字が黒ではなく茶褐色に見えることがありますが、鉄を含む没食子インクが長い時間をかけて酸化したことも一因です。
一方で、鉄と酸性成分を含むため、長期間では紙や羊皮紙を傷める場合があります。大英図書館でも、歴史的な写本に残る没食子インクの腐食が保存上の重要な課題になっています。
羊皮紙は「紙が普及する前の本」を支えた
羊皮紙は、特に中世ヨーロッパの書物文化を語るうえで欠かせない存在です。
Getty Museumによると、ヨーロッパや地中海世界では約500年から1500年にかけて多くの写本が制作され、その材料として動物皮から作った羊皮紙が利用されました。
宗教書や法律文書など、後世へ残す必要がある重要な記録にも使われています。
有名な「マグナ・カルタ」も羊皮紙へ書かれました。
動物1頭から取れる面積には限界があります。イギリス議会によると、羊1頭分の皮から作れる小型写本は2~3冊程度でした。
分厚い写本を1冊作るには、多くの皮と膨大な手作業が必要になります。
現代の本と比べれば、1冊そのものが非常に大きな価値を持っていたことが分かります。
現代にも羊皮紙は残っている
羊皮紙は過去だけの素材ではありません。
現在も歴史資料の修復や書道、装飾写本の再現、研究、工芸などで扱われています。
また、古い羊皮紙を科学的に分析することで、
- どの動物の皮なのか
- どのように加工されたのか
- どの程度劣化しているのか
といった情報を読み解く研究も続けられています。羊皮紙そのものが歴史を記録した「素材資料」でもあるわけです。
日本でも羊皮紙について体系的に紹介する書籍が出版され、実物の製作や写本文化への関心が広がっています。
まとめ
羊皮紙は名前に「紙」と付いていますが、植物から作る紙ではありません。
羊やヤギ、仔牛などの皮から毛や脂肪を取り除き、木枠へ強く張りながら薄く削り、コラーゲンを主体とする丈夫な筆記素材へ仕上げたものです。
2026年10月4日の「所さんの目がテン!」では、その羊皮紙を手作業で完成させるだけでなく、ガチョウやダチョウの羽から羽ペンを作り、虫こぶと鉄から黒いインクまで再現します。
羊の皮、鳥の羽、植物にできる虫こぶ、鉄。
現代なら別々に見える素材を組み合わせ、中世の人々は何百年、何千年先まで文字を残すための「本」を作っていました。羊皮紙作りをたどると、1冊の本が貴重品だった時代のものづくりが見えてきます。
参考リンク
・日本テレビ「所さんの目がテン!」公式サイト
・Getty Museum「The Making of a Medieval Manuscript」
・国立国会図書館 レファレンス協同データベース「羊皮紙の歴史・作り方」
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