あさイチで深掘りする宇治抹茶、普通の緑茶とは作り方から違う
2026年10月8日放送のNHK「あさイチ」愛(め)でたいnippon 京都・宇治では、「宇治抹茶の世界」が取り上げられます。
鮮やかな緑色と、渋みだけではない濃厚なうま味が特徴の抹茶。その違いは、単に緑茶を細かく粉にしたから生まれるものではありません。茶畑を覆って日光を遮る「覆下栽培」、摘んだ葉を揉まずに乾燥させる「碾茶」、さらに細かな粉末へ仕上げる工程まで、煎茶とは異なる作り方が続きます。
この記事でわかること
- 宇治抹茶の濃い緑色とうま味が生まれる理由
- 抹茶の原料「碾茶」と煎茶の違い
- 宇治茶が鎌倉時代から発展してきた歴史
- 宇治抹茶のおいしい点て方と保存のポイント
宇治抹茶は「覆下栽培した碾茶」を細かな粉末にしたもの
抹茶を理解するうえで最も重要なのが「碾茶(てんちゃ)」です。
京都府茶業会議所では、抹茶を「覆下栽培した茶葉を碾茶炉などで揉まずに乾燥した碾茶を、茶臼などで微粉末状にしたもの」としています。つまり、一般的な煎茶を粉にしたものと抹茶は製造工程そのものが違います。
碾茶を作る大まかな流れは、
- 茶園を覆って育てる
- 新芽を摘み取る
- 茶葉を蒸す
- 揉まずに乾燥させる
- 茎や葉脈などを取り除いて仕上げる
- 茶臼などで微粉末にする
というものです。
農林水産省も、覆下栽培した新芽を蒸して揉まずに乾燥させたものが碾茶であり、そこから茎や葉脈を取り除き、石臼で挽くことで抹茶になると説明しています。
煎茶では蒸した後に茶葉を揉みながら乾燥させますが、碾茶は粉末にすることを前提としているため、葉を開いた状態のまま乾燥させます。京都府茶業会議所によれば、摘んだ茶葉はまず20~30秒ほど蒸し、その後、碾茶特有の工程で乾燥させていきます。
ここが「普通のお茶を粉砕したもの」と「抹茶」を分ける大きなポイントです。
濃い緑色とうま味の秘密は茶畑を覆う「覆下栽培」
宇治抹茶を特徴づける技術が「覆下栽培(おおいしたさいばい)」です。
茶の新芽が伸びている期間に、よしず、こも、寒冷紗などで茶園を覆い、日光を遮って育てます。
京都府によると、光を遮ることで、露地で育てた煎茶とは異なる鮮やかな緑色、独特の香り、まろやかなうま味や甘味が生まれます。
なぜ日光を遮るとうま味が残るのでしょうか。
茶葉に日光が当たると、うま味成分であるアミノ酸のテアニンが、渋みに関係するカテキンへ変化していきます。
そこで摘採前の茶園を覆い、直射日光を抑える。
するとカテキンの増加が抑えられ、テアニンがより多く残ります。抹茶を口にしたときに感じる、濃厚で丸みのあるうま味には、この栽培方法が深く関係しています。
碾茶では摘採前の2~3週間程度、茶園を覆うのが基本。玉露にも覆下栽培が使われますが、その後の製茶方法が違うため、最終的にまったく異なるお茶になります。
宇治で400年以上磨かれてきた覆下栽培
覆下栽培は最近生まれた高級茶向けの技術ではありません。
京都府茶業研究所によると、その歴史は400年以上前にさかのぼります。
もともとは春先に芽吹いた新芽を遅霜から守るために茶園を覆ったことが始まりでした。その後、覆うことで茶の色や香り、味が変わることが分かり、品質を高める栽培技術として発達していきます。
京都府茶業会議所では、室町時代後期に宇治で覆下栽培という大きな技術革新が起こったと紹介しています。
このころ日本では、派手な茶会から、精神性を重視する「わび茶」へ文化が変化していきました。
質の高い抹茶を必要とする茶文化と、よりうま味の強い茶を作る宇治の技術がともに発展していったことになります。
現在、黒い覆いに包まれた茶畑を宇治周辺で見かけることがありますが、その光景は400年以上続く技術の現代版です。
宇治茶の始まりは鎌倉時代、茶の一大産地へ
宇治の茶づくりは、さらに古い時代へさかのぼります。
鎌倉時代初期、臨済宗を日本へ伝えた栄西が中国から茶の種と飲み方を持ち帰ったとされ、その茶を明恵上人が京都・栂尾の高山寺などで育てました。
茶の栽培はやがて宇治へ広がります。
室町時代になると、宇治茶の評価は高まっていきました。
茶を飲んで産地を当てる「闘茶」も流行します。現在でいえば利き茶のような遊びですが、当時は賭け事に発展して禁止令が出るほど盛んでした。
さらに江戸時代になると、宇治から将軍家へ茶を運ぶ「お茶壺道中」が行われます。
興味深いのは、江戸へ運ばれた茶壺の中身です。
完成した抹茶ではなく、抹茶になる前の「碾茶」が詰められていました。碾茶の状態で江戸まで運び、到着後に抹茶へ挽いていたとされています。
抹茶は粉にした瞬間が完成ではありますが、その前段階である碾茶の品質と保存も極めて重要だったことが分かります。
「宇治茶」は宇治市だけで作られた茶という意味ではない
「宇治抹茶」という名前から、宇治市内の茶畑だけで作られたお茶だと思う人もいるかもしれません。
しかし「宇治茶」には正式な定義があります。
京都府茶業会議所では2004年、宇治茶を、歴史・文化・地理・気象などを総合的に考え、宇治茶とともに発展してきた
- 京都
- 奈良
- 滋賀
- 三重
の4府県産茶を原料とし、京都府内の業者が京都府内で仕上げ加工したものと定めています。そのうえで京都府内産を優先するとしています。
「宇治」という言葉は単純な市町村名ではなく、長い歴史の中で形成された生産、加工、流通、茶文化を含むブランドなのです。
京都府南部では、宇治市だけでなく和束町、宇治田原町、南山城村、木津川市など、地域ごとの地形や気候を生かした茶づくりが続いています。
碾茶は揉まない、煎茶は揉む
抹茶と煎茶の違いを一番簡単に理解するなら、「摘んだ後に揉むかどうか」に注目すると分かりやすくなります。
碾茶は、
蒸す
↓
揉まずに乾燥
↓
仕上げ加工
↓
粉末化
↓
抹茶
という流れです。
一方の煎茶は、
蒸す
↓
揉みながら乾燥
↓
形を整える
↓
仕上げ加工
という流れです。
茶葉をそのまま湯に浸して成分を抽出する煎茶に対し、抹茶は茶葉そのものを細かな粉末にして飲みます。
同じ緑茶でも、畑での育て方から製茶、飲み方まで違うわけです。
家庭で宇治抹茶を点てるなら約1.7g・80度前後
抹茶は茶室だけで楽しむものではありません。
京都府茶業会議所が紹介する基本的な点て方では、1杯分の目安は抹茶約1.7g、お湯70~80cc、湯温80度前後です。
家庭で点てる場合は、
- 抹茶:約1.7g
- お湯:約70~80cc
- 湯温:約80度
- 抹茶はできればふるってから茶碗へ入れる
- 最初はゆっくり湯となじませ、その後茶筅を前後に動かす
という方法から始めると分かりやすいでしょう。
最後に茶筅をゆっくり動かして表面を整えれば完成です。
高価な道具を一式そろえなくても、茶碗と茶筅があれば家庭でも抹茶そのものの香りや味を楽しめます。
宇治抹茶は湿気・高温・光を避けて保存
抹茶は細かな粉末だからこそ、保存にも気をつけたいお茶です。
京都府茶業会議所では、お茶の品質を守るうえで特に避けたいものとして「湿度・温度・日光」を挙げています。
湿気を吸えば香りが損なわれ、空気に触れることで酸化が進みます。温度が高いほど変質しやすく、強い光は色と風味の変化につながります。
購入するときは一度に大量に買うより、短期間で使い切れる量を選ぶほうが抹茶本来の香りと色を楽しみやすくなります。
開封後はしっかり密閉し、高温多湿や光を避けて保存するのが基本です。
まとめ
宇治抹茶の鮮やかな緑色と濃厚なうま味は、茶葉をただ粉末にしただけでは生まれません。
茶園を2~3週間ほど覆って日光を遮る「覆下栽培」でうま味を残し、摘み取った茶葉を蒸し、揉まずに乾燥させて「碾茶」を作る。その碾茶を細かな粉末へ仕上げて、ようやく抹茶になります。
宇治では400年以上前から覆下栽培が磨かれ、鎌倉時代から続く茶づくりと茶文化の中で抹茶が発展してきました。
茶畑での栽培、碾茶づくり、仕上げ加工、粉末化という長い工程を知ると、茶碗に入った一杯の宇治抹茶が、単なる「緑色のお茶」とはまったく違って見えてきます。
参考リンク
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