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虫歯ワクチンが実現しなかった理由と口内フローラ・歯生え薬の最新研究|未来予測反省会

未来予測反省会

虫歯はなぜなくならない?60年前の根絶予測と未来の歯科医療

1966年、アメリカでは「今後10年で事実上、虫歯を根絶できる」という大胆な未来予測が語られていました。虫歯を引き起こす細菌への理解が進み、ワクチンによって虫歯を防ぐ時代が来ると期待されていたのです。

しかし、1976年になっても虫歯はなくならず、それから50年が経過した現在も世界中の人々を悩ませています。

2026年10月20日放送のNHK総合『未来予測反省会「虫歯はなくなる」』では、この予測が実現しなかった理由を出発点に、アメリカの虫歯ワクチン研究、700種類以上の細菌が存在する口内フローラ、歯そのものを再生する未来の治療技術まで幅広く取り上げます。

さらに、東北大学病院の江草宏教授も出演。細菌をなくすことから、口の中の微生物と共存しながら健康を守ることへと変わりつつある歯科医療の考え方に迫ります。

※放送後詳しい内容が分かり次第追記します。

この記事でわかること

  • 1966年に虫歯の根絶が予測された背景と実現しなかった理由

  • アメリカの虫歯ワクチン研究と700種類以上の口腔細菌の関係

  • 口内フローラを整える新しい予防研究と現在の虫歯予防法

  • 江草宏教授の再生歯科研究と「歯生え薬」の開発状況

1966年「10年以内に虫歯がなくなる」と予測された理由

かつて虫歯は、医学の進歩によって近い将来に克服できる病気の一つと考えられていました。

その期待を高めたのが、虫歯の原因となる細菌の研究です。

1960年、アメリカの国立歯科研究所(NIDR)の研究者ロバート・フィッツジェラルドとポール・キーズは、ハムスターを使った実験によって、特定の連鎖球菌が虫歯の発生に関与し、虫歯を引き起こす細菌が伝播することを示しました。

当時としては大きな発見でした。

虫歯が細菌によって起こるのであれば、その細菌への感染や働きをワクチンで抑えることで、虫歯そのものを予防できるのではないか。こうした発想が研究への期待を押し上げたのです。

1966年には、アメリカで「今後10年で事実上、虫歯を根絶できる」という予測が登場しました。

さらに1971年には、アメリカ議会の資金によって「National Caries Program(全米虫歯対策計画)」が始動します。

この国家的な研究計画では、虫歯の予防を目指し、代用甘味料の研究や歯の溝を保護するシーラント、地域社会での予防活動など、多方面から対策が進められました。

ところが、期待された1976年になっても虫歯は根絶されませんでした。

原因となる細菌を発見することと、複雑な人間の口の中で虫歯の発生を完全に防ぐことは、別の問題だったのです。

アメリカが挑んだ虫歯ワクチンはなぜ実用化されなかったのか

虫歯ワクチンの研究では、主にミュータンス菌として知られる Streptococcus mutans(ストレプトコッカス・ミュータンス)が重要な研究対象となってきました。

この細菌は、糖を利用して酸を作り、歯の表面のエナメル質を溶かす働きに関わっています。

ワクチンによってミュータンス菌の歯への付着や働きを抑えられれば、虫歯の予防につながるという考え方です。

しかし、虫歯の成立には細菌だけでなく、食生活、歯の状態、唾液、ほかの微生物など、さまざまな条件が関わります。

たとえ一つの原因菌への対策に成功しても、それだけで虫歯が起こらない状態を保証することはできません。

また、口の中では複数の細菌が集団を作り、歯の表面に付着しています。ワクチンの効果を長期間維持できるか、十分な安全性があるかなども、実用化に向けて検証しなければなりません。

さらに、虫歯にはフッ化物を利用した予防法などが存在するため、新しいワクチンには既存の予防法と比較した有効性や安全性の証明も求められます。

虫歯ワクチンの研究はその後も続けられてきましたが、現在、一般の歯科診療で使用できる承認済みの虫歯予防ワクチンはありません。

かつての「原因菌をワクチンで抑えれば根絶できる」という期待は、虫歯という病気の複雑さによって見直されていったのです。

口の中には700種類以上の菌が存在する!虫歯の複雑な仕組み

虫歯の研究を大きく変えたのが、口腔内に存在する微生物全体への理解です。

人間の口の中には、700種類以上の細菌が存在するとされています。

これらの細菌は、歯の表面、歯と歯ぐきの境目、舌、頬の粘膜など、それぞれ異なる環境に生息しています。

口の中に存在する微生物とその集まりを研究する際に使われる重要な概念が、口腔マイクロバイオーム(口内フローラ)です。

腸内フローラと同じように、口の中にも多様な微生物による生態系が存在しているのです。

ここで重要なのは、すべての口腔細菌が虫歯を引き起こすわけではないということです。

健康な口の中にも多くの細菌が存在しており、問題になるのは、特定の細菌の働きが強くなったり、細菌集団の構成や活動が虫歯を起こしやすい状態へ変化したりすることです。

例えば、糖分を頻繁に摂取すると、細菌による酸の産生が繰り返されます。

その結果、歯の表面では酸性の状態が続き、歯のミネラルが溶け出す「脱灰」が進みやすくなります。

唾液などによる「再石灰化」が追いつかなければ、虫歯が発生・進行します。

つまり、虫歯は単純に一種類の細菌がいるかどうかではなく、口の中の環境と微生物の活動のバランスによって生じる病気なのです。

虫歯予防の新戦略「口内フローラ」を整える方法とは

従来の虫歯対策では、虫歯の原因菌を減らすことが重視されてきました。

一方、近年の研究では、口腔内の微生物をすべて排除するのではなく、健康的な細菌集団を維持するという考え方が注目されています。

この研究の中心にあるのが「ディスバイオシス」という概念です。

ディスバイオシスとは、微生物の集団構成や働きのバランスが崩れ、病気につながりやすい状態になることを指します。

虫歯の場合は、糖分の頻繁な摂取などによって酸を作る細菌が活動しやすい環境になり、酸に強い細菌が優位になることが問題になります。

そこで研究されているのが、健康な口腔環境に関連する細菌を活用したり、微生物が増殖する環境を変えたりする方法です。

代表的な研究の方向性には、次のようなものがあります。

  • プロバイオティクス:特定の微生物を利用して口腔内の環境に働きかける研究

  • プレバイオティクス:健康に関連する微生物の働きを支える物質を利用する研究

  • 微生物の選択的制御:虫歯に関わる細菌の働きを狙って抑える研究

  • バイオフィルム制御:歯に付着する細菌集団の形成や活動を調整する研究

こうした研究が進めば、原因菌を一律に減らす方法とは異なる新しい予防手段につながります。

ただし、口内フローラを整えることを目的とした製品や方法すべてについて、虫歯予防効果が確立されているわけではありません。

市販の乳酸菌製品や口腔ケア商品を使用するだけで、虫歯が防げると断定することもできません。

現在の歯科医療では、確立された予防法と新しい微生物研究を区別して考えることが重要です。

東北大学病院・江草宏教授が取り組む未来の再生歯科医療

今回の番組に出演する専門家の一人が、東北大学病院の江草宏(えぐさ・ひろし)教授です。

江草教授は、東北大学大学院歯学研究科の分子・再生歯科補綴学分野に所属し、東北大学病院の咬合修復科で科長を務めています。

また、東北大学大学院歯学研究科の先端再生医学研究センター長も務め、再生医療や次世代の歯科材料に関する研究を進めています。

主な研究分野には、次のようなものがあります。

  • iPS細胞や間葉系幹細胞を活用した口腔組織の再生

  • 歯を支える歯槽骨や歯周組織の再生

  • 新しいインプラント材料の研究開発

  • 歯科材料の機能性や安全性の向上

  • デジタル技術を利用した歯科治療の高度化

従来の歯科治療では、失われた歯の機能を詰め物、かぶせ物、入れ歯、インプラントなどで補ってきました。

再生歯科医療が目指すのは、生体の細胞や組織の働きを利用し、失われた組織そのものを回復させることです。

江草教授らの研究グループは、2025年には歯根の長さや形の制御に関係する仕組みを報告しています。

さらに2026年には、歯を抜いた後の骨再生に関わる免疫細胞の働きや、インプラントと骨の結合を高める新たな表面構造などについても研究成果を発表しました。

こうした研究は、将来の歯科医療を「失われた部分を人工物で補う医療」から、より生体に近い組織や機能の回復を目指す医療へ発展させるための基盤となります。

歯を丸ごと新品にする未来!「歯生え薬」TRG035の開発状況

歯科再生医療の研究で注目されている技術の一つが、薬によって新しい歯の形成を促す「歯生え薬」です。

日本では、京都大学発のベンチャー企業であるトレジェムバイオファーマ株式会社などが、歯の再生治療薬「TRG035」の開発を進めています。

この研究の中心人物の一人が、北野病院の歯科口腔外科主任部長を務める髙橋克氏です。

TRG035が標的とするのは、「USAG-1」というタンパク質です。

USAG-1には、歯の形成に関わるシグナルを抑制する働きがあります。

研究では、このタンパク質の働きを抗体で抑え、歯の形成を促すことを目指しています。

動物を使った研究では、新たな歯の形成を促す成果が報告されています。

開発は人を対象とする臨床試験の段階にも進みました。

  • 2020年5月:トレジェムバイオファーマ株式会社設立

  • 2024年10月:TRG035の第1相臨床試験を開始

  • 2025年9月:第1相試験の被験者のデータ回収を完了

  • 2026年8月17日:先天性無歯症を対象とする第Ⅱa相試験の治験計画届について、PMDAによる所定の調査が完了

2026年8月の発表では、今後、治験実施医療機関の審査などを経て、被験者の組み入れや治験薬の投与を開始する予定とされています。

最初に開発対象となっているのは、生まれつき永久歯の数が少ない「先天性無歯症」です。

この治療薬は、虫歯で失った歯を誰でもすぐに生やし直せる薬ではありません。

また、口の中の歯を一度にすべて新品へ交換する技術が実用化されたわけでもありません。

歯の再生に関する研究には、歯の形成を薬で促す方法や、幹細胞などを利用して歯や周囲の組織を作る方法など、異なる技術があります。

それぞれ研究の進み具合や対象とする患者が違うため、区別して理解する必要があります。

現在の虫歯予防で効果が確認されている方法

未来の歯科医療に期待が集まる一方、現在の生活で虫歯を予防するためには、すでに効果が確認されている方法を組み合わせることが大切です。

厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」では、虫歯を作る主な要因として、歯の質、細菌、糖分の3つを挙げています。

これらの要因に対応する予防法が、フッ化物の利用、歯磨き、食生活の管理などです。

フッ化物配合歯磨き剤を使う

フッ化物には、歯の再石灰化を促し、酸に対する抵抗性を高める働きがあります。

厚生労働省の情報では、6歳以上の子どもから成人・高齢者に対して、次の使用方法が紹介されています。

  • フッ化物濃度:1,400~1,500ppmF

  • 使用量:歯ブラシ全体に1.5~2cm程度

  • 使用回数:就寝前を含む1日2回

  • 歯磨き後:歯磨き剤を軽く吐き出す

  • うがいをする場合:少量の水で1回

年齢によって推奨される使用量や濃度は異なります。特に小さな子どもには、年齢に合わせた方法を選ぶ必要があります。

糖分を口にする回数を意識する

虫歯予防では、甘いものを食べる量だけでなく、摂取する頻度も重要です。

甘い飲み物を長時間かけて少しずつ飲んだり、間食を繰り返したりすると、口の中が酸性になる機会が増えます。

間食の時間を決めることや、普段の水分補給に水やお茶を選ぶことも、虫歯のリスクを抑えることにつながります。

歯科医院での予防処置を利用する

奥歯の複雑な溝は、歯ブラシの毛先が届きにくい場所です。

そのため、歯科医院では必要に応じて、歯の溝を保護する「シーラント」などの処置が行われます。

また、歯と歯の間の清掃にはデンタルフロスなどを取り入れ、本人の歯並びや口腔状態に合った清掃方法を歯科医師・歯科衛生士に確認することも役立ちます。

虫歯予防は特別な一つの方法だけで完成するものではなく、日々の生活習慣と歯科医療を組み合わせて行うものなのです。

虫歯との戦いは「撲滅」から「予防と共存」へ

1960年代の虫歯研究では、原因となる細菌に注目し、その細菌を抑えることが大きな目標でした。

しかし、口腔内の微生物を詳しく研究できるようになったことで、病気の発生に関わる要因が、想像以上に複雑であることが分かってきました。

現在では、単に細菌を減らすだけでなく、歯を守る環境を維持するという考え方が重要になっています。

歯の表面で起こる脱灰と再石灰化のバランスを保ち、虫歯を引き起こしやすい細菌集団への変化を防ぐことが、その一つです。

さらに将来は、微生物の働きをより細かく制御する予防技術や、失われた歯・歯周組織の再生技術が発展することも期待されています。

かつて予測された「虫歯を根絶する未来」とは異なる形で、歯科医療は前進を続けています。

まとめ

『未来予測反省会』の「虫歯はなくなる」では、1966年に登場した虫歯根絶の未来予測と、現代の歯科医療を取り巻く研究の進歩が中心テーマになります。

虫歯ワクチンが期待どおりに実用化されなかった背景には、虫歯が単一の細菌だけで成立する病気ではなく、700種類以上の細菌が存在する複雑な口腔環境と関わっていることがあります。

現在は、口内フローラのバランスに注目した予防研究や、歯そのものの再生を目指す治療薬の開発も進んでいます。

一方で、日常生活ではフッ化物配合歯磨き剤の使用、糖分を摂取する頻度の管理、適切な口腔清掃などが、引き続き重要な予防手段です。

虫歯を完全になくすという60年前の夢は実現していませんが、虫歯を予防し、自分の歯を長く守るための選択肢は着実に広がっています。

参考リンク


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