100歳以上の人から作るiPS細胞は、健康長寿の仕組みを調べるための研究材料
100歳を超えても元気な人の体には、どんな秘密があるのでしょうか。2026年11月7日放送のNHK総合『タモリ・山中伸弥の!? iPS細胞スペシャル』では、100歳以上の長寿者のiPS細胞を研究し、「超長寿」の仕組みに迫る取り組みが紹介されます。
100歳以上の人の血液などからiPS細胞を作り、病気への強さや細胞の働きを研究することは、すでに実際に行われています。ただし、iPS細胞を作れば寿命が延びるという意味ではなく、長寿になる決定的な方法が見つかったわけでもありません。
100歳の人からiPS細胞を作ると何がわかる?
iPS細胞は、血液や皮膚などに由来する細胞を、さまざまな種類の細胞に変化できる状態へ初期化したものです。百寿者からiPS細胞を作って神経細胞や心臓の細胞などへ変化させれば、体内で直接採取することが難しい組織についても、その人の遺伝的な背景を反映した実験モデルを作れます。
そこで、病気になりやすい人の細胞と、長寿で健康を保ってきた人の細胞を比較し、遺伝子の働きや病気への反応に違いがあるかを調べます。人そのものを若くする技術というより、長く健康でいられる仕組みを細胞レベルで探る方法です。
一方、細胞をiPS細胞へ完全に初期化すると、老化に関連する細胞の状態の一部も変わります。作製された細胞が100年間の老化をそのまま保持するわけではないため、遺伝的な特徴と加齢に伴う変化を分けて考える必要があります。
米国では百寿者と子どもの血液からiPS細胞の作製に成功
2024年9月に公表され、2025年の科学誌『Aging Cell』に掲載された米国の研究では、100歳以上の長寿者45人、その子ども45人、比較対象の6人から血液試料を集めました。対象者の健康状態や、自立した生活を送れているかといった情報も研究に用いられています。
このうち20人分の血液試料を使って、品質を評価したiPS細胞株の作製に成功しました。研究では、細胞が多様な組織に分化できる性質や、ゲノムの安定性などが確認されています。
この成果によって、百寿者やその家族の細胞を今後の病気・加齢の研究に活用するための基盤が整いました。ただし、20人のiPS細胞から「長寿遺伝子が特定された」「長生きの薬ができた」わけではありません。
日本でも慶應義塾大学が超百寿者とiPS細胞の研究を進めている
日本では慶應義塾大学医学部の百寿総合研究センターなどが、100歳以上の人の健康状態や遺伝情報を長年調べています。同大学の研究計画では、超長寿者から集めた試料をiPS細胞技術、腸内細菌叢の解析、遺伝子やタンパク質の大規模解析などと組み合わせ、健康長寿に関連する指標を探す方針が示されています。
年齢によって呼び方は異なり、百寿者は100歳以上、超百寿者は105歳以上、スーパーセンチナリアンは110歳以上です。極めて高齢まで生きた人の体が、なぜ長く機能を維持できるのかを探る研究が続いています。
全国超百寿者研究では、2025年7月までに約850人の超百寿者・スーパーセンチナリアンが参加。百寿者のテロメアの特徴や、慢性的な炎症が健康状態に及ぼす関係などが研究成果として示されています。これらの成果のすべてがiPS細胞の実験から得られたわけではありません。
2026年には「110歳以上の免疫細胞」に新しい発見
2026年8月、大阪大学・慶應義塾大学・理化学研究所の共同研究グループは、110歳以上の人に多くみられるCD4陽性キラーT細胞を解析した成果を公表しました。
100歳以上の人の血液細胞データと1,500人規模の公開データを調べると、この免疫細胞は90歳代までは少ない一方、100歳代以降で割合が増える傾向がみられました。細胞は疲弊状態を示さず、多様な免疫反応に関係する特徴を持っていました。
この結果は、年齢を重ねると免疫が一方的に衰えるだけではなく、超高齢期に免疫の構成が変化する可能性を示しています。ただし、特定の免疫細胞が多ければ誰でも110歳まで生きられる、という因果関係は証明されていません。また、これは主に免疫細胞のデータを調べた研究であり、iPS細胞を移植した実験ではありません。
iPS細胞の研究で若返りや120歳超えは実現する?
iPS細胞の研究には、細胞を完全に初期化する方法のほかに、細胞の本来の役割を保ちながら老化に関係する状態を変えようとする部分的初期化という方向性もあります。しかし、細胞の変化を捉えることと、全身の老化を安全に逆転させることは別です。
目の神経細胞で部分的初期化を試す治験としては、『ER-100と山中因子による細胞の若返り研究』があります。これも人間全体の寿命を延ばす治療ではありません。
百寿者の細胞を詳しく調べることは、加齢性の病気の予防や新しい薬を開発する手がかりになり得ます。ただし寿命を120歳や150歳まで延ばせる技術が確立したという事実はありません。研究成果を、そのまま日常生活でできる若返り法と受け取らないことが大切です。
健康長寿でわかっていることと、まだわからないこと
長寿には遺伝的な特徴だけでなく、病気の既往、生活環境、医療へのアクセスなど多くの要因が関係します。長寿者だけに見られる特徴があっても、それが長生きの原因なのか、長生きできた結果なのかは慎重な検証が必要です。
現段階では、百寿者のiPS細胞研究から生まれた「誰でも長寿になる薬」や「老化を戻す治療」を選べるわけではありません。日々の健康管理と、研究段階の実験的な若返り技術は区別する必要があります。
まとめ
100歳以上の人のiPS細胞は、健康長寿の仕組みや病気への強さを細胞レベルで研究するために使われています。米国では百寿者らの血液からiPS細胞を作ることに成功し、日本でも超百寿者の健康や遺伝情報の研究が進行中です。ただし長寿の決定的な原因は未解明で、iPS細胞による寿命延長や全身の若返りは実用化していません。
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