医師とパイロットを両立する次田展之さん
瀬戸内海の離島で診療所を運営しながら、自らヘリコプターを操縦して島を行き来する医師が次田展之(つぎた・のぶゆき)さんです。医学生時代にアメリカで飛行機の操縦免許を取得し、その後はプロのエアショーパイロットとしても活動してきた異色の経歴を持ちます。『情熱大陸(次田展之/診療所医師・パイロット)(2026年8月9日)』でも、百島・佐木島・岩城島を結びながら医療を届ける姿が取り上げられます。なぜ空を飛ぶ医師になったのか、これまでの歩みと離島医療の仕組みを詳しく見ていきます。
この記事でわかること
- 次田展之さんが医師とパイロットを両立するまでの経歴
- 百島で離島医療を始めた理由
- 佐木島・岩城島へ診療を広げた背景
- ヘリで3つの島を結ぶ現在の医療活動
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次田展之さんは医師とパイロットの二刀流
次田展之さんは、瀬戸内海の島々で診療する医師であり、自ら航空機やヘリコプターを操縦するパイロットでもあります。
1973年1月に神奈川県で生まれ、日本大学医学部を卒業。現在は瀬戸内海にある百島診療所、佐木島診療所、岩城診療所などを拠点として地域医療に取り組んでいます。
これだけ聞くと「ドクターヘリに乗る医師なのかな」と思うかもしれませんが、一般的なドクターヘリとは少し違います。
次田さんの場合は、医療スタッフとしてヘリに同乗するだけではなく、自分自身が操縦桿を握って島から島へ移動するのが大きな特徴です。
3つの島はいずれも本州や四国と橋でつながっておらず、住民が島外の病院へ通うには船を利用する必要があります。
その移動の負担を少しでも減らし、限られた時間の中で複数の島を診療するために、空路が使われています。
初めて知ると少し驚きます。
医師免許とパイロットとしての経験が別々に存在しているのではなく、「飛べる医師」という経験そのものが現在の離島医療に生かされているからです。
次田さんは現在、心海会の理事長を務めながら、診療所の医師として島の住民を診ています。公式サイトでは現在、法人名が社会医療法人心海会と案内されています。
医学部時代にアメリカで飛行機免許を取得
次田さんが飛行機と出会ったのは、医師になってからではありません。
日本大学医学部の学生だった時代にアメリカへ渡り、小型飛行機の操縦免許を取得しています。
さらに現地でアクロバット飛行を目にしたことが、その後の人生を大きく変えました。
アクロバット飛行とは、航空機で急上昇や急旋回などを行う高度な飛行技術です。
次田さんはその世界に魅了され、世界的なエアショーパイロットとして知られるショーン・タッカーさんに弟子入りしました。
医学部に通いながら飛行機の免許を取るというだけでも珍しい経歴ですが、そこで終わらず、さらに曲技飛行まで本格的に学んでいるところが次田さんらしいところです。
その後、日本大学医学部附属板橋病院に入り、医師として働き始めます。
普通ならここで飛行機は趣味として続ける道もあったでしょう。
ところが次田さんは、医師として働きながらパイロットとしての活動も続けました。
個人的には、この段階ではまだ「飛行機好きの医師」という印象ですが、この2つの経験が何年も後に離島の住民へ医療を届ける手段として1本につながったところがおもしろいと感じます。
プロのエアショーパイロットとして活動した経歴
次田展之さんは、単に飛行機を操縦できる医師というだけではありません。
2002年には、日本のアクロバット飛行チーム「エアロック」に所属し、プロのエアショーパイロットとして活動しました。
エアショーでは、一般的な移動のための飛行とは違い、高度な操縦技術と瞬時の判断が求められます。
一方、医療の現場でも、患者の状態を見ながら限られた時間の中で判断しなければならない場面があります。
もちろん航空機の操縦と診察はまったく別の仕事ですが、どちらにも冷静な状況判断や安全への意識が欠かせません。
次田さんはその後、
- 日本大学医学部附属板橋病院
- 帝京大学医学部附属市原病院
- 湘南第一病院
- サガミホームクリニック
などで医療経験を積んでいます。
サガミホームクリニックでは副院長を務めました。
医師として病院勤務を重ねながら、もう一方では空を飛ぶ。
一見するとまったく違う2つの道ですが、次田さんは医学部時代から「自分にしかできない医療」を思い描いていたとされています。
後にその答えとなったのが、離島医療でした。
次田展之さんが離島医療を始めた理由
次田さんが本格的に離島医療へ進んだ背景には、医師が常駐していない島の現実がありました。
その出発点となったのが、広島県尾道市の百島(ももしま)です。
百島では以前の診療所が休止した2005年以降、長い間、医師が常駐しない状態が続いていました。
次田さんは以前から離島医療を考えており、瀬戸内海の島々を巡って診療拠点となる場所を探していました。
その中で百島と出会います。
2010年の時点ですでに複数回島を訪れ、診療所開設に向けて準備を進めていました。
次田さんが目指したのは、単に島に診察室を作ることではありません。
当時から救急、外来、在宅医療、往診などを幅広く行う構想を持ち、自分の船を使って周辺の島へ訪問診療することまで考えていました。
離島の場合、体調が悪くなったからといってすぐ車で総合病院へ行けるとは限りません。
まず港へ行き、船に乗り、さらに港から病院へ移動する必要があるケースがあります。
天候によって船が動かない可能性もあります。
若い人なら何とか移動できても、高齢になって足腰が弱くなれば、その負担はかなり大きくなります。
次田さんは後に、医療や介護を受けるために島を離れざるを得ない状況を変え、住み慣れた島で生活を続けられる環境を作りたいという考えを語っています。
個人的には、ここが次田さんの活動を理解するうえで一番大切な部分だと感じます。
「珍しい空飛ぶ医師」というだけではなく、目的はあくまで島に住み続けられる医療環境を作ることなのです。
百島診療所を開設した経緯
次田さんが百島を初めて訪れたのは2009年。
島を何度も訪ねながら準備を進め、2011年4月1日に百島診療所を開設しました。
当時の百島は、前の診療所が休止してから約5年間にわたって医師不在の状態が続いていました。
島側から見ても、「医師が自ら移住して診療所を開いてくれる」というのは非常に大きな出来事でした。
尾道市も受け入れのため、診療所の改修や医療機器購入などの支援を進めています。
次田さんは百島へ移る際、単に飛行機で移動したわけではありません。
船舶免許も持っており、自ら所有する船を使って離島間を移動し、周辺地域への訪問診療にも取り組むようになりました。
2011年6月ごろからは島外への訪問診療を本格化。
百島からおよそ30km圏内の島々を対象に、医療器具を船へ積み、看護師らと島を回っていました。
つまり現在の「ヘリで島を回る医師」という姿だけを見ると、最初から空路中心だったように感じますが、実際には船を使った訪問診療の積み重ねが先にあったことがわかります。
この流れを知ると、ヘリコプターは話題作りのための特別な道具ではなく、離島で医療を続ける中でたどり着いた移動手段の一つだと理解しやすくなります。
さらに次田さんは2022年、へき地医療に尽力する医師をたたえる第9回「やぶ医者大賞」を受賞しています。
百島で診療所を運営しながら、船やヘリコプターを操縦して周辺の離島まで訪問診療を続けてきた活動が評価されました。
佐木島まで診療所を広げた背景
百島だけで離島医療を終わらせなかったのも、次田さんの大きな特徴です。
2018年には、広島県三原市にある佐木島(さぎしま)に佐木島診療所を開設しました。
佐木島も本州とは橋でつながっておらず、島外へ出るには船を利用します。
現在の佐木島診療所は、旧向田小学校の校庭内にあります。
百島と佐木島は別々の自治体に位置しますが、瀬戸内海という同じ地域の中で「島に住んでいるため病院へ行きづらい」という共通の課題があります。
次田さんにとって重要なのは、行政区域だけで区切るのではなく、実際に医療を必要としている人の生活圏に合わせることなのでしょう。
現在、佐木島診療所では平日を中心に診療日が設定されています。
ただし曜日によって診療時間や担当医が異なり、木曜日は別の医療機関の医師が担当する体制も取られています。
実際に受診を考える場合は、「次田先生がいると思って行けばいつでも診てもらえる」というわけではありません。
診療日や担当医は事前に確認することが大切です。
離島では船の時刻も関係するため、都市部の診療所より移動計画まで含めて確認しておきたいところです。
岩城島で2026年に診療所を再開
さらに2026年、次田さんたちの活動は愛媛県の岩城島(いわぎじま)まで広がりました。
岩城島では、それまで島の医療を担っていた診療所が2025年に閉鎖。
島にとって大きな医療上の課題となっていました。
そこで心海会が運営を担い、2026年5月をめどに岩城診療所を再開することになりました。
愛媛県の資料でも、心海会が百島診療所・佐木島診療所を運営している実績を持つ法人として、岩城診療所を運営することが確認されています。
診療所再開前の住民説明会には、悪天候にもかかわらず多くの住民が集まりました。
それだけ島で診療所が再び開くことへの期待が大きかったことがうかがえます。
診察室やパソコンなどの準備も、次田さんだけではなく看護師や事務スタッフが協力して進めました。
百島が2011年、佐木島が2018年、岩城島が2026年。
こうして並べると、短期間で急拡大したのではなく、約15年をかけて1島ずつ診療体制を広げてきたことがわかります。
たしかに「3つの島をヘリで回る」と聞くと派手な印象がありますが、その裏側にはそれぞれの島で診療所を立ち上げ、人を配置し、住民との信頼関係を築く地道な作業があります。
ヘリで島を移動する「フライングドクター」の仕組み
次田さんが「フライングドクター」と呼ばれる大きな理由が、自らヘリコプターを操縦して診療拠点を移動することです。
百島、佐木島、岩城島はいずれも橋で本州・四国へ直接つながっていません。
船を使う場合、港への移動、船の待ち時間、航行時間などが必要になります。
医師が1日に複数の島で診療しようとすると、移動だけでもかなりの時間を取られます。
そこで空路を利用することで、島と島の移動時間を短縮できます。
実際に次田さんは、ヘリコプターを自ら操縦し、約10km離れた別の島へ移動して診療しています。
ただし、ここで誤解したくないのが「救急患者をヘリでどんどん搬送する医師」というイメージです。
次田さんの取り組みの中心は、離島に診療所を置き、そこへ医師自身が効率よく移動して日常的な地域医療を続けることにあります。
島では高齢者が多く、糖尿病や高血圧、腰痛といった慢性的な病気を抱える患者も少なくありません。
こうした病気は1回診察して終わるものではなく、長く付き合いながら状態を確認していく必要があります。
そのため次田さんは、検査結果や病歴だけではなく、患者の家族構成や日常生活まで把握するよう努めています。
都市部なら患者が病院へ出向くことが当たり前でも、離島ではその前提自体が難しい。
そこで発想を逆転させて、患者が医師のところへ行くのではなく、医師が患者の暮らす島へ移動するわけです。
個人的には、「ヘリを飛ばす」という派手な部分より、この考え方こそフライングドクターの本質だと感じます。
飛行技術そのものが目的ではなく、限られた医師の時間を複数の島へ届けるための手段になっています。
次田展之さんの診察は島の暮らしまで見る
次田さんの医療には、もう一つ特徴があります。
患者の病気だけを診るのではなく、その人が島でどのように暮らしているのかまで知ろうとする姿勢です。
離島では高齢者が一人暮らしをしているケースもあります。
薬をきちんと飲めているのか、食事は取れているのか、家族の支援があるのか。
こうした生活環境は健康状態と切り離せません。
次田さんは患者の既往歴だけでなく、好きな食べ物や家族構成なども把握しながら診療しています。
診療時も白衣で威圧感を出すのではなく、普段着に近い格好で世間話をするように患者と接するスタイルです。
必要な場面でははっきり健康指導もしますが、日常の会話を重ねながら状態を確認しています。
これは小さな地域ならではの医療ともいえます。
大きな病院では、患者と医師が数か月に1回短時間会うだけというケースもあります。
一方、島の診療所では日常生活まで含めて患者を長く見続けることになります。
「島民はみんな家族」という次田さんの考え方も、こうした診療スタイルにつながっています。
社会医療法人心海会と現在の活動
次田さんは現在、社会医療法人心海会を中心に離島医療を続けています。
確認できる主な診療拠点は次の3つです。
| 診療所 | 場所 | 開設・再開 |
|---|---|---|
| 百島診療所 | 広島県尾道市百島町 | 2011年 |
| 佐木島診療所 | 広島県三原市鷺浦町 | 2018年 |
| 岩城診療所 | 愛媛県越智郡上島町 | 2026年 |
百島診療所と佐木島診療所については、心海会の現在の公式案内でも診療時間や所在地が公開されています。
初めて受診する場合には、マイナンバーカードまたは健康保険証、受給者証、お薬手帳、紹介状など、該当するものを持参するよう案内されています。
ただ、島の診療所は都市部のクリニックとは事情が異なります。
診療日や担当医が変わる可能性もありますし、船便や天候の影響も考えなければなりません。
実際に受診や訪問を考えるなら、必ず最新の診療日程を確認してから向かうことが重要です。
次田展之さんの歩みを振り返ると、かなり不思議な経歴に見えます。
医学部時代にアメリカで飛行機免許を取り、世界的なエアショーパイロットに弟子入りし、プロとして空を飛びながら医師として経験を積む。
そして2011年、医師不在だった百島に診療所を開き、その後は佐木島、岩城島へと活動を広げました。
普通なら「医師」と「パイロット」は別々の人生にも思えます。
しかし次田さんの場合、その2つが最後には「医療が届きにくい島へ、自分自身が飛んで行く」という一つの仕事につながっています。
空を飛べること以上に、船でもヘリでも必要な場所へ向かい、島で暮らし続けたい人を支えること。
そこまで知ると、「フライングドクター」という言葉の見え方も少し変わってくるのではないでしょうか。
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