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古屋晋一の外骨格ロボット|手から脳へ働きかけるピアニスト限界突破研究【所さん!事件ですよで紹介】

所さん!事件ですよ

指を勝手に動かす外骨格ロボットがピアニストの限界に挑む

自分では動かせないほど速く指を動かされると、その「経験」が脳を変える。『所さん!事件ですよ(手の血管が消える!? あなたの知らない「手」の世界)(9月5日)』に登場するのが、ソニーコンピュータサイエンス研究所の手指外骨格ロボットです。開発を進める古屋晋一さんの研究と、「手が脳に教える」と表現される仕組みを掘り下げます。

この記事でわかること

  • 「ゴッドハンド」と呼ばれる装置の正体
  • 外骨格ロボットが指を動かす仕組み
  • 指の経験によって脳が変化する研究
  • 古屋晋一さんがこの研究を始めた背景

“ゴッドハンド”の正体はソニーCSLの手指外骨格ロボット

指を高速に動かす「外骨格ロボット」で“自身の限界”を超えるピアノ練習法、ソニーCSLが発見 - ITmedia NEWS

(出典:指を高速に動かす「外骨格ロボット」で“自身の限界”を超えるピアノ練習法、ソニーCSLが発見 – ITmedia NEWS

この装置を研究しているのは、古屋晋一さんを中心とするソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)の研究チームです。

手の甲から指にかけて装着し、それぞれの指を独立して高速に動かせる外骨格型のロボットです。古屋さんの研究サイトにも「手指外骨格ロボット Exoskeleton」が研究開発用ハードウェアとして明記されています。

番組の実験にはピアニストの篠永紗也子さんも参加しています。本人が、古屋さんをはじめとするSony CSLで開発された外骨格ロボットの実験に参加したことを告知しています。

人間にはできない速さを先に指へ「経験」させる

ポイントは、ロボットが演奏を代わりにしてくれることではありません。

熟練ピアニストでも一定以上速くならなくなった指を外骨格ロボットで受動的に動かし、本人がまだ行ったことのない高速で複雑な動きを身体に経験させることに研究の特徴があります。

実験では、ピアニストが2週間トリルを練習して、それ以上速くならない状態まで到達してからロボットによる訓練を実施しました。

通常なら1秒間に約2回程度しかできない複雑な指運動を、ロボットによって1秒間に4回という速度で経験させています。複雑かつ高速な動きを経験した条件で、ロボットを外した後の指の速度が向上しました。

ここが従来の「できる動きをひたすら繰り返す練習」と大きく違うところです。

「手が脳に指示する」は手から入る感覚情報が脳を変えるという意味

「脳が手に命令するのではなく、手が脳に指示する」という表現は、文字どおり手が司令塔になるという意味ではありません。

ロボットによって指を動かされると、関節や筋肉、皮膚などから大量の体性感覚情報が脳へ戻ります。その「今まで体験したことのない動き」を脳が受け取ることが、新しい運動学習のきっかけになると考えられています。

興味深いのは、外骨格ロボットを右手だけに装着した実験でも、ロボットを装着していない左手の動きまで速くなったことです。

筋力や柔軟性の変化だけでは説明できず、非侵襲の磁気刺激を使った検査では脳機能の変化を示す結果が得られました。研究チームは、複雑な指運動の経験が脳に記憶された可能性を考えています。

プロでも2万~3万時間練習すると「伸びない壁」にぶつかる

この研究が初心者ではなく熟練ピアニストを対象にしている点も重要です。

幼少期からピアノを始めた専門家の中には、成人までに2万~3万時間もの練習を積む人がいます。それでも、あるところから同じ練習を続けても能力が伸びない「天井効果」が生じます。

古屋さんは、その壁が本当に人体の限界なのか、それとも「まだ経験していない動きを脳が知らないだけなのか」という問いから研究を進めています。

外骨格ロボットは、努力を省略する道具というより、努力だけでは到達できなかった身体経験を人工的につくる装置と考えると分かりやすいです。

古屋晋一さん自身も長時間のピアノ練習で手を痛めた経験がある

古屋さんがこの分野に進んだ背景には、自身のピアニストとしての経験があります。

3歳からピアノを始め、学校がない日には約10時間練習したこともありました。その結果、手の痛みや指を動かしにくくなる身体トラブルを経験しています。

改善するためにさまざまな身体トレーニングやリハビリ方法を調べたものの、20歳ごろに世界の方法を調査した際、科学的根拠が十分でないものが多いことに驚いたことが研究への転機になりました。

その後、日本・アメリカ・ドイツで研究を進め、2017年にSony CSLへ。演奏家が身体を壊さず、思い描いた表現を実現できる方法を神経科学や工学から研究しています。

外骨格ロボットの先にはスポーツや医療、技能継承も見えている

この技術は「ピアノが速く弾ける機械」だけで終わる研究ではありません。

古屋さんは、脳の可塑性を利用する考え方について、スポーツ、医療、さらには文化や技能の継承にも応用できる可能性を挙げています。

専門家が長年の練習で到達した限界を、外から与えた新しい身体経験によって突破できるなら、「人はどうやって熟練するのか」という考え方そのものが変わります。

今回の装置の面白さはロボットの派手な見た目以上に、人間の能力の限界は筋肉だけではなく、脳がどんな動きを経験しているかにも左右されることを見せている点にあります。


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