札幌で弾き続けた福居良の音楽が、長い時間をかけて世界へ届いた
2026年9月14日放送のNHK「ドキュメント20min. Slow Boat to the World」では、没後10年を迎えたジャズピアニスト・福居良さんの軌跡が描かれます。
生前は札幌を拠点に演奏を続けた福居さんですが、その音楽はインターネット時代になって海外で再発見され、YouTubeやSpotifyを通じて世界中へ拡大しました。1976年のデビューアルバム『Scenery』は海外レーベルから正式に再発され、2026年には国内でもアルバム7タイトルが高音質アナログ盤として一斉発売されています。
札幌・すすきので福居さんが築いたジャズライブハウス「Slowboat」も現在営業を続けています。地方を拠点に自分の音楽を追求したピアニストが、なぜ没後に世界的な存在となったのか。その背景をたどります。
この記事でわかること
- 福居良さんの音楽が没後に世界へ広がった理由
- 代表作『Scenery』が再発見された経緯
- 22歳からピアノを始めた福居良さんの異色の歩み
- 札幌のジャズライブハウスSlowboatの現在と場所
福居良の世界的人気を生んだ『Scenery』とネットでの再発見
公式動画:福居良「Mellow Dream(Live at Vidro’77)」Official Audio|ULTRA-VYBE
福居良さんの名前が世界的に知られるようになった大きな要因は、過去の録音がインターネットを通して世代や国境を越えて聴かれるようになったことです。
リットーミュージックが2026年に刊行した『評伝 福居良 世界をめぐる北のジャズ』の紹介でも、生前は「知る人ぞ知る」存在だった福居さんの音楽が、死後に海外から再発見され、YouTubeやSpotifyを通じて急速に広がったと説明されています。
その象徴となった作品が、1976年発表のファーストアルバム『Scenery』です。
ピアノ、ベース、ドラムというシンプルなトリオ編成で録音された作品で、「It Could Happen To You」「I Want To Talk About You」「Early Summer」「Willow Weep For Me」「Autumn Leaves」、そして福居さん作曲の「Scenery」を収録しています。
海外で再評価が進んだ結果、スイスのレーベルWe Release Jazzは『Scenery』をオリジナルマスターから正式に再発。レーベルは福居さんについて、モーダル、バップ、クールジャズを組み合わせた独自性を持つ独学のピアニストとして紹介しています。
つまり福居さんは、亡くなったことで突然評価されたというより、録音された音楽がデジタル時代に新しい聴き手と出会い、その評価が没後さらに大きく世界へ広がっていった音楽家と考えると、その歩みがよく見えてきます。
22歳でピアノを始め、わずか6年後に『Scenery』を発表
福居良さんの経歴で特に印象的なのが、ジャズピアニストとしてはかなり遅いスタートです。
1948年に北海道平取町で生まれ、18歳ごろからアコーディオンに取り組み、22歳だった1970年にピアノを始めました。札幌市も2012年度の札幌文化奨励賞受賞者紹介で、福居さんがアコーディオン奏者を経て1970年からピアノを始め、その後ジャズピアニストとして精力的に活動したと紹介しています。
ピアノを始めてからわずか6年後の1976年には『Scenery』を発表。
翌1977年にはセカンドアルバム『Mellow Dream』へ進みました。
幼少期から英才教育を受けたピアニストではありません。成人してから新しい楽器に向き合い、札幌という土地で演奏経験を積みながら、自分のスタイルを作り上げていったところに福居さんのキャリアの大きな特徴があります。
札幌市は2012年の受賞理由として、アルバムや独特の演奏スタイルが国内外から注目されていることに加え、後進の指導にも熱心に取り組み、札幌が「ジャズの街」として魅力を発信することに貢献したと評価しています。
世界的なブーム以前から、福居さんが地元札幌で積み上げてきた活動はすでに高く評価されていたのです。
Slowboatは現在も札幌・すすきので営業している
番組タイトルにもなっている「Slow Boat」は、福居良さんと切り離せない場所です。
福居さんが札幌で開いたジャズライブハウス「Slowboat」は、福居さんの死後も営業を継続しています。
現在の店舗は北海道札幌市中央区南3条西3丁目1-4、もりにビル4階。地下鉄南北線すすきの駅1番出口から徒歩約3分です。
営業時間は公式サイトで19時30分~24時、ラストオーダー23時30分と案内されており、不定休のため、訪問前にライブスケジュールを確認する形になっています。電話番号は011-210-5144です。
ほぼ毎日のようにジャズの生演奏が行われ、ステージと客席との距離が近いこともSlowboatの特徴です。
番組では、福居さんが生前に作ったこの小さなジャズバーへ、現在は海外からファンが訪れていることも描かれます。
札幌から世界へ積極的に売り込んだというより、福居さんが長年音楽を鳴らし続けた場所に、何十年もの時間を経て世界の聴き手のほうからやって来る。この現象そのものが「Slow Boat to the World」という番組タイトルにつながっています。
1977年の未発表ライブまで後世になって作品化された
福居さんの再評価は『Scenery』だけではありません。
1977年6月8日、札幌のライブハウス「びーどろ」で演奏された福居良トリオの音源が残されており、2021年に『Live at Vidro ’77』として正式に作品化されました。
このライブを録音したのは『Scenery』『Mellow Dream』を手がけたプロデューサーの伊藤正孝さん。約16分に及ぶ「Mellow Dream」をはじめ、「Speak Low」「Body And Soul」「Love For Sale」などが収録されています。
興味深いのは、このライブ音源の一部が当時トリオ・レコーズ本社で評価され、セカンドアルバム『Mellow Dream』制作へつながったとされていることです。
福居さんが世界的な注目を集めたことで、デビュー期の演奏まで掘り起こされ、数十年後のリスナーが聴ける作品になりました。
音源そのものが残されていたことと、聴きたいと望む新しいファンが世界中に生まれたこと。この2つが重なり、福居良という音楽家の歴史が現在も更新され続けています。
1999年にはニューヨークで録音するまでに成長
福居さんのキャリアは1970年代だけで終わっていません。
1994年にはソロピアノ作品『My Favorite Tune』を発表。1999年にはニューヨークでアルバムを録音しています。札幌市の受賞者紹介でも、1994年の3作目、1999年の4作目について記録されています。
『In New York』では、福居さんが師と仰いだジャズピアニスト、バリー・ハリスにゆかりのあるリズムセクションと共演しました。
22歳からピアノを始めた青年が、札幌で演奏を積み重ね、やがてジャズの本場ニューヨークでレコーディングするまでになる。
華々しいブレイクを繰り返した人生ではなく、一歩ずつ演奏を深めていった時間の長さこそ、福居さんの物語を象徴しています。
没後10年の2026年にアルバム7タイトルがアナログ盤で一斉発売
福居さんの世界的な再評価が一時的なブームではないことを示す出来事が、没後10年となる2026年にも起きています。
Slowboat公式サイトは、2026年6月24日に福居良さんのアルバム7タイトルが高音質アナログ盤として一斉リリースされたことを発表しています。
対象には『Scenery』『Mellow Dream』『My Favorite Tune』『In New York』『A Letter from Slowboat』『Live at Vidro ’77』『Ryo Fukui Trio at the Slowboat 2004』が含まれます。
代表作『Scenery』などの1枚組は税込6,050円、『Live at Vidro ’77』と『Ryo Fukui Trio at the Slowboat 2004』の2枚組は税込7,150円で販売されています。
さらに2026年6月19日には、元NHKディレクターの栗山慎二さんによる『評伝 福居良 世界をめぐる北のジャズ』も発売されました。四六判272ページ、定価2,640円です。
没後10年を迎えても新しい作品や書籍が相次いで世に出ていることからも、福居さんへの関心が現在進行形で続いていることがわかります。
実用情報|Slowboatへの行き方と福居良の音楽を聴く方法
福居良さんゆかりのSlowboatは、現在も札幌・すすきのでライブを楽しめます。
所在地は北海道札幌市中央区南3条西3丁目1-4 もりにビル4階。すすきの駅1番出口から徒歩約3分で、営業時間は19時30分~24時です。不定休のため、公式サイトのライブ情報を確認してから訪れるのがおすすめです。
福居さんの音源はSpotifyやYouTube Musicなどの配信サービスでも聴くことができ、『Scenery』『Mellow Dream』をはじめとする作品はCDやアナログ盤でも流通しています。
特に初めて聴く場合は、世界的再評価の中心となった『Scenery』から入ると、福居良さんがなぜ時代を越えて聴かれているのかをつかみやすいでしょう。
まとめ
福居良さんは22歳からピアノを始め、1976年に『Scenery』でデビューしました。東京へ活動の中心を移すのではなく札幌に根を張り、ライブ演奏と後進の育成を続けたピアニストです。
生前から札幌では高く評価されていましたが、その音楽が本格的に世界中へ届いたのは、YouTubeやSpotifyなどを通じて過去作品が海外の若いリスナーに再発見されてからでした。『Scenery』は海外で正式に再発され、未発表ライブ音源も作品化。2026年には7タイトルのアナログ盤が一斉発売されるまでになっています。
そして福居さんが残した札幌のSlowboatには、今も国内外からジャズファンが訪れています。
「人生よりも長い時間をかけて世界へたどり着いた」という今回の「ドキュメント20min. Slow Boat to the World」の言葉は、福居さん自身だけでなく、札幌で録音され、長い年月を漂った末に世界中の人へ届いた音楽そのものを表しているのかもしれません。
参考リンク
リットーミュージック『評伝 福居良 世界をめぐる北のジャズ』
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