江上芳子が針と絹糸で描く、絵画のような江戸刺繍
2026年9月14日放送の『東京交差点 ONE MOMENT』に登場するのは、江戸刺繍伝統工芸士の江上芳子さんです。染色の世界から刺繍へ進み、現在は図案づくりから仕上げまでを自ら手掛けています。
注目したいのが、2024年の東京都伝統工芸士展新作コンクールで銅賞を受賞した額絵**「花と妖精」**。着物を飾る技術にとどまらず、針と絹糸そのものを絵筆のように使って世界を描く、江上さんの現在の作風を象徴する作品です。
この記事でわかること
- 江上芳子さんが江戸刺繍の道へ進んだきっかけ
- 銅賞を受賞した「花と妖精」がどんな作品なのか
- 江上さんが「糸で絵を描く」ために使う江戸刺繍の技
- 江上工房と日本刺繍教室「銀の針の会」の場所・料金
「花と妖精」は2024年の新作コンクール銅賞作品

出典:東京都伝統工芸士会「第3回 東京都伝統工芸士展新作コンクール」結果発表
2024年に開かれた「第3回 東京都伝統工芸士展新作コンクール」には26作品が出品され、962人による来場者投票が行われました。その中で江上芳子さんの江戸刺繍作品「花と妖精」が銅賞に選ばれています。
江上さん自身の工房サイトによると、「花と妖精」で表現したのは花の中で遊ぶ子どもの世界。着物や帯の一部分に模様を添える作品ではなく、額の中にひとつの世界を構成した刺繍作品です。
受賞後、江上さんは工房サイトで、図案の段階から力を入れて制作したことを振り返っています。大きな立体作品などに比べれば平面の刺繍は会場で目立ちにくいと感じていたものの、それでも来場者から支持されて銅賞になりました。
まさに今回の番組タイトルにある「糸で絵を描く」を形にした作品といえます。
染色から江戸刺繍へ進んだ江上芳子
江上芳子さんは東京都出身。桑沢デザイン研究所を経て、ビデオプロモーション、染色工房「美研荘」で経験を積みました。
その後、東京手描友禅の職人である夫・江上昌幸さんの染色助手を務めるようになります。そこで「染めた着物に刺繍を入れたら素敵なのでは」という発想が生まれたことが、刺繍の世界へ進むきっかけになりました。
日本刺繍は本島寿美子さんに師事。やがて染色で培った色彩やデザインの経験を生かし、自分で図案を作り、自分で刺繍するスタイルを築いていきます。現在の江上工房では、昌幸さんを「染める人」、芳子さんを「繍う人」として紹介しています。
単に用意された図柄を縫う職人ではなく、何を描くかを考えるところから作品が始まっているのが江上さんの大きな特徴です。
江戸刺繍は絹糸の太さまで自分で決めて描いていく
江戸刺繍は、京風・加賀風と並ぶ日本刺繍の代表的な流れです。
東京都の伝統工芸品紹介では、依頼内容に合わせて図案や色を決め、絹糸を使いながらさまざまな縫い方を組み合わせて表現すると説明されています。江戸刺繍では模様を全面に埋めるのではなく、余白も生かした構成が特徴のひとつです。
江上さんの制作では、絹の「釜糸」を作品に合わせて撚り、必要な太さに調整して使います。テレビ朝日の公式取材では、赤系だけでも約50種類の糸を用意していることや、約2.4cmの短い針を使って刺繍台の上下から両手を動かす様子が紹介されています。
つまり、単に「色の付いた糸で縫う」のではありません。
- 図案を考える
- 生地に合う色を選ぶ
- 糸の組み合わせや太さを調整する
- 刺繍台に生地を張る
- 表と裏から針を操る
- 複数の縫い方で光や立体感を作る
- 最後に仕上げを行う
こうした工程を重ねて、平らな布の上に絵画のような奥行きを作り出します。
番組では江上さんが、最後にアイロンを当てた瞬間に「絵が一気に浮かび上がる」ことを刺繍の醍醐味として挙げています。長い制作工程の末に作品全体の姿が見えてくる瞬間なのでしょう。
着物だけではなく帯留めやバッグなど日常の品にも刺繍
江戸刺繍と聞くと、豪華な着物や帯を想像しがちです。
江上さんはそうした和装作品だけでなく、現代の生活で使いやすい小物にも刺繍を取り入れています。
江上工房ではこれまでに、
- パスケース
- あずま袋
- 小物入れポーチ
- 刺繍半衿
- 数寄屋袋
- 革のポシェット
- 巾着
などを制作。伝統的な技術を残しながら、身近に使えるものへ広げていることがわかります。
また夫・昌幸さんが染めた生地に芳子さんが刺繍を入れる合作も手掛けています。「染め」と「刺繍」がひとつの工房の中でつながっている点も江上工房ならではです。
日本刺繍教室「銀の針の会」で江上芳子から学べる
江上芳子さんは作品制作だけでなく、後進に技術を伝える日本刺繍教室「銀の針の会」も主宰しています。
江上工房公式サイトに現在掲載されている自宅工房教室の内容は次の通りです。
- 場所:東京都練馬区土支田2-30-18
- 開催:第1・第3土曜日
- 午前:10:00~12:00
- 午後:13:30~15:30
- 月2回、午前または午後の時間帯を選択
- 入会金:5,000円
- 月謝:7,000円
- 道具一式と最初の作品の材料費:約30,000円
- 祝日は休み
- 日程が変更される場合あり
最初の作品では、塩瀬の帯地に大きな桜を刺しながら、台への生地の張り方、針や糸の扱いなど基本を学びます。2作目は半衿、3作目以降は技量や希望に合わせた作品へ進む構成です。
工房は不定休のため、作品や教室について訪問前に問い合わせておくのが確実です。
江戸刺繍を着物の中だけに閉じ込めない
江上芳子さんの仕事を追っていくと、一貫しているのは「伝統的な技術をそのまま保存するだけではない」という姿勢です。
自ら図案を描き、絹糸の色を選び、着物や帯だけでなくバッグやアクセサリー、額絵へと表現を広げてきました。2025年には小さな照明器具を手にしたことから、帯地へ刺繍を施した「灯り」の作品を試作するなど、新しい用途にも挑戦しています。
「花と妖精」が象徴するのも、その延長線上にある世界です。
長い歴史を持つ江戸刺繍の技法を使いながら、昔の意匠を再現するだけではなく、江上さん自身が見たい景色を糸で描く。だからこそ番組でも「糸で絵を描く」という言葉が前面に出されているのでしょう。
まとめ
江戸刺繍伝統工芸士の江上芳子さんは、染色を学んだ経験を出発点に、日本刺繍を身につけ、現在は図案から刺繍、仕上げまで自ら担う職人として活動しています。
2024年には、花の中で遊ぶ子どもの世界を表現した額絵「花と妖精」が東京都伝統工芸士展新作コンクールで銅賞を受賞しました。
着物や帯だけではなく、バッグ、小物、額絵、さらに新しい生活用品へ。伝統技術を守りながら「自分の絵」を糸で描き続けているところに、江上芳子さんの江戸刺繍の面白さがあります。
参考リンク
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