大田区の町工場が挑む「メタル三味線」という新しい楽器
2026年10月3日放送の日本テレビ「ぶらり途中下車の旅」では、生瀬勝久さんが京浜東北線を巡り、東京都大田区の町工場が力を合わせて製作する「メタル三味線」が登場します。番組でも「町工場の力を結集した!メタル三味線」として取り上げられる、異色のものづくりです。
中心となっているのは一般社団法人大森工場協会の「メタル三味線プロジェクト」。津軽三味線奏者・山影匡瑠さんとの出会いから、木材や皮を中心に作られてきた伝統楽器を、町工場が得意とする金属加工技術で再構築する挑戦が始まりました。
この記事でわかること
- メタル三味線がどんな楽器なのか
- なぜ町工場が三味線を金属で作り始めたのか
- 山影匡瑠さんとプロジェクトの関係
- 大田区の「仲間まわし」が楽器作りに生かされる仕組み
メタル三味線は主要部分を金属で作った新世代の三味線

メタル三味線は、大森工場協会の会員企業が取り組んでいる「総金属製の三味線」です。
一般的な三味線では、棹に花梨、紫檀、紅木などの木材が使われ、胴には皮が張られます。それに対してメタル三味線では、町工場が得意とする金属加工を生かし、三味線の主要構造を金属へ置き換えています。
単に見た目を金属風に仕上げた楽器ではありません。
大森工場協会が掲げている狙いは、総金属製の三味線を製造して新しい価値を作ることと、その「ものづくりのプロセス」そのものを見せることです。
伝統楽器と町工場。
一見すると離れている2つの世界をつなぎ、大田区が蓄積してきた加工技術を目で見て、音で聞ける形にしたプロジェクトなのです。
始まりは津軽三味線奏者・山影匡瑠さんとの出会い
メタル三味線誕生の重要人物が、津軽三味線奏者の山影匡瑠さんです。
大森工場協会は、山影さんとの出会いをきっかけとして「大田の技術と仲間まわしで金属性の三味線製造に挑戦中」と説明しています。
背景には、プロの三味線奏者が抱える楽器の課題がありました。
東京都工業団体連合会の紹介では、
- 希少な木材を使わない
- 丈夫である
- メンテナンスしやすい
という三味線へのニーズから、新しい楽器作りが動き出したことが紹介されています。
伝統的な三味線の魅力を否定して金属へ置き換えるのではありません。
演奏家が実際に楽器を使う中で感じていた課題と、町工場が持つ加工技術を結び付けたところから始まっています。
山影匡瑠さんは国内外で活動する津軽三味線奏者
山影匡瑠さんは、津軽三味線を軸に国内外で演奏活動を続けている奏者です。
公式プロフィールでは、ライブや舞台だけでなく、海外公演や企業イベントなど幅広い場で演奏。ドイツで開催された世界的な馬術大会「CHIO Aachen」の開会式でも演奏しています。
メタル三味線プロジェクトでは単に完成した楽器を弾くのではなく、演奏家の立場からアドバイスする役割も担っています。
東京都工業団体連合会の紹介では、山影さんが従来の三味線の音を生かしながら、金属ならではの新しい個性を持たせたいという考えを示しています。
町工場側だけで「面白いものを作る」のではなく、実際に三味線を演奏するプロの感覚を取り入れながら改良している点が重要です。
大田区の「仲間まわし」が1本の三味線を作る
メタル三味線を理解するうえで欠かせないのが、大田区の町工場文化である「仲間まわし」です。
大田区には、それぞれ異なる加工技術を持つ中小製造業が集まっています。
ある工場は切削が得意。
別の工場は曲げ加工。
また別の工場は研磨。
1社ですべてを抱えるのではなく、必要な技術を持つ仲間へ仕事をつなぎ、最終的に高精度な製品を完成させます。
大森工場協会も、会員企業同士のつながりと「仲間まわし」を特徴として掲げています。
メタル三味線も、この考え方を象徴するプロジェクトの一つです。
通常なら自動車、機械、産業設備などの部品に使われる加工技術を、今度は1本の楽器へ集める。
完成した三味線そのものだけでなく、「この部品をどの町工場がどう加工したのか」という工程まで含めて作品になっています。
金属だからこそ「三味線の常識」が変わる
金属化すると、三味線には従来と異なる特徴が生まれます。
その一つが強度です。
木材や皮を主体とする伝統楽器では、温度・湿度や扱い方にも気を使います。一方、メタル三味線は「丈夫でメンテナンスしやすい三味線」という発想から開発が進められています。
さらに金属は加工方法の選択肢が多く、
- 切る
- 削る
- 曲げる
- 磨く
といった町工場の技術を盛り込むことができます。
伝統的な三味線では木工や皮張りの職人技が重要ですが、メタル三味線では旋盤、切削、板金、研磨といった別の職人技が加わります。
楽器の形は三味線でも、製造現場は精密機械の部品工場に近づくという面白さがあります。
音を補うためMSPピックアップも活用
金属で作れば、それだけで従来の三味線と同じ音になるわけではありません。
実際の演奏では、音を電気的に拾うピックアップも活用されています。
アコースティック楽器用ピックアップ「MSP」の使用事例では、山影さんがメタル三味線へMSPピックアップを装着し、音を増幅して演奏していることが紹介されています。
通常の三味線では、胴の内部に磁石を入れてピックアップを固定する方法があります。
ところがメタル三味線はスチール部分へ磁石を直接付けられるため、金属製であること自体がピックアップ装着の利点にもなりました。
「金属にするとどんな音になるのか」だけでなく、「金属だから可能になる使い方」まで生まれているのです。
イベントにも登場し町工場の技術を伝えてきた
メタル三味線は工場の中だけで開発されている試作品ではなく、人前にも登場しています。
2023年にはJR蒲田駅で開催された「まちこうばがやってくる!2023」に出展されました。
このイベントは、普段は接点の少ない地域住民と大田区の町工場が直接交流し、加工品や技術を知ってもらうことを目的としたものです。メタル三味線も町工場の技術を伝える展示の一つとして参加しています。
2024年には蒲田のイベントで、山影さんが「メタル三味線」として演奏する機会も設けられています。
つまり、目標は楽器を1本完成させることだけではありません。
三味線という誰にでも形をイメージしやすいものを入り口にして、普段は目に見えにくい町工場の技術そのものへ関心を持ってもらう役割があります。
伝統楽器を守るために素材を変えるという発想
メタル三味線で興味深いのは、「伝統を守ること」と「従来通りに作ること」を同じ意味にしていない点です。
従来の三味線には長い歴史があり、その材料や製法を受け継ぐ職人技があります。
一方で、材料となる木材、耐久性、維持管理など、現代ならではの課題もあります。
そこで町工場側は、三味線の形や演奏文化を残しながら、素材を金属へ変えるという別の方向から楽器の未来を考えました。
大森工場協会がメタル三味線を、下町ボブスレーやおおたコマプロジェクトなどと並ぶ「新たな価値を創造する」取り組みとして位置付けているのも、そのためです。
伝統技術と最新加工技術のどちらかを選ぶのではなく、両方を組み合わせる。
それがメタル三味線の大きな特徴です。
メタル三味線プロジェクトの実用情報
メタル三味線プロジェクトについて確認できる基本情報です。
- プロジェクト:メタル三味線プロジェクト
- 運営主体:一般社団法人 大森工場協会
- 所在地:東京都大田区中央2-11-10
- 電話:03-3771-4744
- 受付時間:平日9:00~17:00
- 主な目的:総金属製三味線の開発と大田区のものづくり技術の発信
- 協力演奏家:津軽三味線奏者・山影匡瑠さん
- テレビ放送:2026年10月3日「ぶらり途中下車の旅」
プロジェクトに関する問い合わせ窓口は大森工場協会です。
まとめ
メタル三味線は、大田区の町工場が持つ金属加工技術と、津軽三味線奏者・山影匡瑠さんの経験から生まれた総金属製の三味線です。
きっかけとなったのは、希少な木材に頼らず、丈夫でメンテナンスしやすい楽器を作れないかという課題でした。そこへ大田区の町工場が得意とする切削、曲げ、研磨などの技術と「仲間まわし」が加わり、従来とはまったく異なる三味線作りが始まりました。
完成品の珍しさだけが、このプロジェクトの魅力ではありません。
1本の楽器を作るために複数の町工場の技術が集まり、その製造工程そのものが大田区のものづくりを伝える展示になる。
2026年10月3日の「ぶらり途中下車の旅」で登場するメタル三味線は、伝統楽器の姿を借りながら、町工場の技術を次の時代へ見せていく新しい試みです。
参考リンク
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