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小池伸介教授の経歴とツキノワグマ研究|クマが街に現れる理由と25年以上追い続けた森の真実

人物

小池伸介|クマの糞を拾う大学生から、野生動物と人間の共存を考える研究者へ

山の中を歩き回り、クマの糞を探し続ける。そんな地道な調査から研究人生を始めたのが、東京農工大学教授の小池伸介(こいけしんすけ)さんです。

1979年に愛知県名古屋市で生まれた小池さんは、25年以上にわたってツキノワグマの生態を研究してきました。GPSによる行動追跡、クマの視点から撮影した映像、糞に含まれる植物の種子の分析などを通じて、野生のクマがどのように生き、森と関わっているのかを明らかにしてきた研究者です。

2026年10月19日放送予定のNHK総合『クローズアップ現代』では、「クマはなぜ街へ? ~都市部に広がる死角~」のテーマで、小池さんが専門家として出演します。

小池さんの研究で特に重要なのは、クマを単に危険な動物として捉えるのではなく、森の生態系を支える存在としても調べていることです。2026年には、野生のサクラの種子散布や、大量捕獲がクマの年齢構成に与える影響についての共同研究成果も公表されました。

クマの糞を初めて発見した日の喜び、命の危険を感じた山中の事故、研究から明らかになった森の仕組み。そして、人間の生活圏にクマが現れる問題への向き合い方まで、小池さんの歩みをたどります。

この記事でわかること

  • 小池伸介教授の年齢・出身地・学歴とクマ研究を始めたきっかけ

  • 山中での糞採集やGPS・カメラを使った研究方法

  • ツキノワグマが街に現れる背景と、森で果たしている重要な役割

  • 2026年の新しい研究成果と著書・現在の活動

小池伸介教授のプロフィールと経歴

公式動画:野生のクマを追う 研究者たちが語るヒグマ・ツキノワグマの姿(科学技術振興機構・サイエンスポータル)

小池伸介さんは、東京農工大学大学院農学研究院の教授です。専門は生態学で、特にツキノワグマの行動や食性、森林に暮らす生物同士の関係を研究しています。

基本プロフィール

  • 氏名:小池伸介(こいけ しんすけ)

  • 生年:1979年

  • 出身地:愛知県名古屋市

  • 出身大学:東京農工大学農学部

  • 学位:博士(農学)

  • 所属:東京農工大学大学院農学研究院

  • 職位:教授

  • 専門分野:生態学・森林科学・野生動物の保全と管理

  • 主な研究対象:ツキノワグマ、森林生態系、植物と動物の相互作用

  • 主な役職:日本クマネットワーク代表、東京農工大学農学部附属野生動物管理教育センター長

学歴・経歴

  • 2001年3月:東京農工大学農学部地域生態システム学科卒業

  • 2003年3月:東京農工大学大学院農学研究科修士課程修了

  • 2003年4月~2005年3月:日本生態系協会に勤務

  • 2007年4月~2008年4月:日本学術振興会特別研究員

  • 2008年3月:東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程修了

  • 2008年5月:東京農工大学大学院での勤務を開始

  • 2024年:日本クマネットワーク代表に就任

現在の主な研究フィールドは、東京都奥多摩、栃木県・群馬県にまたがる足尾・日光山地、神奈川県の丹沢山地などです。

小池さんが取り組んでいるのは、クマの行動を観察するだけの研究ではありません。クマが食べる植物、移動する場所、繁殖の仕組み、ほかの生物との関係まで、多角的に調べています。

その研究の出発点は、学生時代に恩師から与えられた一つの課題でした。

昆虫好きの少年がクマ研究者になった転機

小池さんは、もともと昆虫が好きな少年でした。

大学に入学したときも、最初からクマの研究者になろうと決めていたわけではありません。本人の著書によると、当初はテニスサークルなどに参加する普通の大学生活を思い描いていたそうです。

ところが、大学の生協の近くで昆虫研究会の部室を見つけたことが転機となります。

部室に並んだ昆虫標本を見て興味を持ち、先輩たちと交流するうちに入会しました。

昆虫研究会では、奥多摩や高尾、群馬県の水上などへ昆虫採集に出かけています。さらに沖縄の西表島にも足を運び、地域によって生息する昆虫が大きく異なることを実感しました。

大学時代には、昆虫研究会と並行して探検部にも所属しています。

探検部で取り組んだのは、沢登りや冬山登山などです。この経験が、後にクマの生息地を調査するときに役立つことになりました。

その一方で、小池さんは古林賢恒先生のもとで野外調査に触れ、森林の生き物について学んでいました。

大学3年生の夏ごろ、古林先生からクマの研究を勧められます。

卒業論文のテーマとして与えられたのが、ツキノワグマの糞の分析でした。

小池さん自身が振り返るように、大学時代のさまざまな出会いと山歩きの経験が、クマ研究へ進む大きなきっかけとなったのです。

クマの糞が見つからない|研究人生の原点となった山での調査

ツキノワグマの糞を調べれば、クマがどのような食物を食べているのかを知る手がかりになります。

しかし、研究を始めたばかりの小池さんには、野生のクマの痕跡を見つける技術がありませんでした。

野生動物保護管理事務所に出入りしながら山へ入り、糞を探し続けます。それでも、なかなか見つかりません。

山にはシカなどの動物の糞もありますが、目的のツキノワグマの糞を見つけるのは簡単ではありませんでした。

転機となったのは、クマに詳しい別の学生と一緒に山を歩いたときです。

同行した学生が、木の上にある「クマ棚」を教えてくれました。

クマ棚とは、クマが木に登って果実などを食べたとき、枝を引き寄せたり折ったりした痕跡です。枝が不自然に集まり、棚のように見えることから、そう呼ばれています。

小池さんがその木の下に目を向けると、大きなクマの糞が落ちていました。

約1か月にわたる探索の末、初めて見つけた糞でした。

それまで小池さんは、昆虫採集や山登りをするときの感覚で森を見ていました。しかし、クマの行動を知っている学生は、木の枝の状態からクマの食事場所を見つけていたのです。

同じ山を歩いていても、何を手がかりに観察するかによって、見えてくる世界が変わります。

この経験は、小池さんが野生動物の痕跡を読み取る研究者へと成長していくうえで、重要な出来事になりました。

林道で車が崖から転落|ヒノキの木に救われた学生時代

クマの調査には、危険も伴います。

学生時代、小池さんは野生動物保護管理事務所の車を運転し、山の林道で事故に遭いました。

狭い林道で車の向きを変えようとしたとき、路面のコケでタイヤが滑り、車が崖の方向へ動き始めたのです。

車内には小池さんを含め4人が乗っていました。

車は崖下へ滑り落ちかけましたが、斜面に生えていたヒノキの木にぶつかって止まりました。

車体の前方が宙に浮き、後輪がかろうじて林道に残っているという危険な状態でした。

4人は慎重に車を降り、全員が脱出できました。

しかし山中ではすぐに連絡することができず、連絡手段を確保するために長時間歩く必要がありました。

事故の翌日には、事務所の人たちと協力して車を回収しています。

小池さんはこの出来事を著書で振り返り、山中での事故がどれほど危険なものかを伝えています。

クマ研究者の仕事は、動物を遠くから眺めるだけではありません。

道のない森林へ入り、険しい地形を歩き、野生動物の痕跡を探します。小池さんが若いころに経験した山歩きや事故は、野外調査の現実を物語っています。

クマの首にカメラを装着|人間が知らなかった行動を記録する

長年の研究を通じて、小池さんたちは新しい調査方法にも取り組んできました。

その一つが、野生のツキノワグマの首にカメラを取り付け、クマ自身の視点から行動を撮影する方法です。

このように、動物に小型の装置を装着して行動や環境などを記録する技術は「バイオロギング」と呼ばれます。

2017年には、東京・奥多摩に暮らすツキノワグマに装着したカメラを使い、約1か月間にわたる行動映像の撮影に成功しました。

映像には、クマが頻繁に木に登る様子や、朽ち木を爪で掘り、シロアリを探して食べる様子などが記録されています。

森林では、クマを人間が直接追い続けることは困難です。

深い藪の中を移動したり、人間に気づかれない場所で休んだりするため、従来の観察だけでは詳しい行動を把握できませんでした。

カメラによる記録は、クマが何を見て、どのように行動しているのかを知る新しい手がかりとなりました。

さらに2021年には、バイオロギングによってツキノワグマのオスとメスが繁殖期に一緒に過ごす様子を撮影する成果も紹介されています。

クマは基本的に単独で行動する動物ですが、繁殖期には個体同士の関係が生まれます。

こうした姿を自然環境の中で記録することにより、これまで把握しにくかった行動が明らかになってきました。

GPSでわかったクマの移動|道路や森林をどう使い分けるのか

小池さんの研究室では、GPSを利用したクマの移動調査も行っています。

野生のツキノワグマにGPS装置を装着し、どの場所をどのような時間帯に利用したのかを記録する方法です。

東京農工大学が2022年に紹介した研究では、栃木県の森林を対象に、クマの移動と周辺の景観との関係が調べられていました。

研究室で得られたデータでは、クマが道路を避けて行動する傾向が確認されています。

また、行動範囲には季節、時間帯、性別などによって違いがあります。

例えば夏には、子どもを連れたメスの行動範囲が限られる一方、オスは繁殖相手を探して広い範囲を移動することがあります。

こうした研究は、クマがどこを通りやすいのか、どの環境を避けるのかを理解するうえで重要です。

ただし、ある地域で得られた結果を、全国すべてのクマにそのまま当てはめることはできません。

森林の状態、人間の活動、道路の位置などは地域によって異なります。

小池さんたちが長期的な追跡を続けているのは、クマの行動が一つの理由だけでは説明できないためです。

クマが街に現れる理由|ドングリの凶作だけでは説明できない問題

近年、クマが山間部だけでなく住宅地や市街地に現れることが、大きな問題となっています。

小池さんが研究しているツキノワグマは、秋になると冬眠に備えて栄養を蓄えます。

その時期の重要な食物が、ブナやミズナラなどのブナ科樹木が実らせるドングリです。

ところが、ドングリの結実量は毎年同じではありません。

豊作の年もあれば、広い範囲で不作になる年もあります。

このような食物条件の変化は、クマの行動に影響することが知られています。

実際に、2026年10月に発表された国立環境研究所と東京農工大学などの共同研究でも、ドングリの凶作とクマの大量出没の関係が示されています。

ただし、ドングリが不作になれば、すべてのクマが人里へ現れるという単純な関係ではありません。

クマの生息域と人間の生活圏が近づいていること、集落周辺に食物となるものが存在すること、人の活動が減った場所があることなども、考える必要があります。

小池さんは著書『クマは都心に現れるのか?』で、クマの行動範囲や学習能力、人間との距離の変化などを取り上げています。

クマが人間を襲うために山から出てくると決めつけるのではなく、食物、移動経路、環境条件、人間との接触という複数の要素から理解することが重要です。

クマは森のサクラを守る|種子を運ぶ意外な役割

小池さんの研究には、クマと人間の問題とは異なる、もう一つの重要なテーマがあります。

それが、クマが森林の植物を増やす役割です。

ツキノワグマは雑食性で、季節によってさまざまな果実を食べます。

果実と一緒に飲み込んだ種子の一部は、消化されずに糞とともに排出されます。

クマが遠くへ移動してから排泄すると、植物の種子も元の木から離れた場所へ運ばれることになります。

この働きが「種子散布」です。

2026年3月24日、東京農工大学と森林総合研究所などの共同研究グループは、野生のサクラの種子散布に関する成果を公表しました。

研究では、関東山地、足尾山地、阿武隈高原の3つの山地で、カスミザクラとウワミズザクラの種子が動物によってどのように運ばれるのかを調べています。

その結果、ツキノワグマは非常に多くの種子を運ぶ動物であることが明らかになりました。

特にカスミザクラでは、クマが種子を気温の低い高標高の場所へ運ぶ働きが確認されました。

地球温暖化によって気温が上昇する中で、植物がより涼しい場所へ分布を広げるためには、種子を運ぶ動物が重要になります。

また、ツキノワグマが生息しなくなった山地では、種子の散布量が大きく減少していました。

この結果は、クマが森林の植物の分布を支えていることを示しています。

人間にとって危険な存在になることがある一方で、森林では植物の世代交代にも関わっているのです。

2026年の研究成果|大量捕獲でクマの年齢構成が変わる

2026年10月5日には、小池さんが参加した新たな共同研究の成果が公表されました。

研究のテーマは、大量出没に伴う捕獲が、ツキノワグマの個体群にどのような影響を及ぼすかというものです。

これまで野生動物の管理では、ある地域にクマが何頭生息しているかが重要な指標とされてきました。

しかし、生息数が同じでも、若い個体と高齢の個体の割合が変われば、将来の繁殖に影響が出ます。

共同研究グループは、長野県、群馬県、栃木県で2001年から2017年に捕獲されたメスのツキノワグマ1,478頭の記録などを分析しました。

その結果、大量捕獲が繰り返されることで、繁殖の中心を担う7歳以上のメスの割合が減少していたことが示されました。

  • 対象期間:2001年~2017年の17年間

  • 対象:本州中部の越後・三国個体群

  • 分析に使用した捕獲記録:メス1,478頭

  • 主な結果:推定生息数に大きな変化がない一方、高年齢のメスの割合が低下

クマは比較的寿命が長く、繁殖までに時間がかかる動物です。

そのため、高齢のメスが減少する影響は、短期間の生息数だけでは把握できません。

この研究が重要なのは、人命を守るための捕獲の必要性を認めながら、その後のクマの個体群にどのような変化が起きるのかを考えている点です。

小池さんたちの研究は、クマを保護するか捕獲するかという二者択一ではなく、人間の安全と野生動物の管理を両立させるための科学的な判断材料を提供しています。

日本クマネットワーク代表として人間とクマの共存に取り組む

小池さんは、研究室での活動に加え、日本クマネットワークの代表も務めています。

日本クマネットワークは1997年5月10日に設立された団体で、人間とクマの共存を目指し、調査や情報交換などを行っています。

2026年5月時点の会員数は412人です。

研究者だけでなく、さまざまな立場の人がクマの問題に関わっています。

小池さんは、長年の生態研究で得られた知識をもとに、クマの大量出没や人身被害についても情報発信しています。

その中で大切にしているのが、クマの生態を正しく理解することです。

例えば、人間がクマと遭遇したとき、背中を向けて走って逃げる行動は危険です。

クマが追いかけてくる危険があるため、落ち着いて相手の様子を確認し、安全な距離を取ることが重要になります。

ただし、遭遇場所やクマとの距離、クマの反応によって状況は異なります。一定の行動で必ず安全を確保できるわけではありません。

事故を防ぐには、クマと出会わないための対策も欠かせません。

クマの出没情報を確認し、食物となるゴミなどを適切に管理し、地域の状況に合った対策を取ることが重要です。

小池さんの活動は、研究の成果を社会に伝え、人間と野生動物の関係を考えることにも広がっています。

著書『クマは都心に現れるのか?』で伝える本当のクマの姿

2026年3月2日、小池さんは扶桑社から『クマは都心に現れるのか?』を出版しました。

25年以上にわたる研究経験をもとに、ツキノワグマの行動や人間との関係を紹介した新書です。

書籍情報

  • 書名:クマは都心に現れるのか?

  • 著者:小池伸介

  • 出版社:扶桑社

  • 発売日:2026年3月2日

  • 価格:1,100円(税込)

  • ページ数:253ページ

  • ISBN:9784594102272

本書では、クマの移動や学習能力、冬眠、個体数の変化、人間との共存など、さまざまな疑問を扱っています。

小池さんはこれまでにも『わたしのクマ研究』『ツキノワグマのすべて』『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』などを出版してきました。

研究者として専門的な論文を発表するだけでなく、一般読者にもクマの生態を知ってもらうための本を書き続けています。

その原点には、大学生のころに初めてクマの糞を見つけ、森の中で起きていることを少しずつ理解していった経験があります。

まとめ

小池伸介さんは、1979年に愛知県名古屋市で生まれ、東京農工大学で学び、25年以上にわたってツキノワグマの研究を続けてきた生態学者です。

大学時代に昆虫研究会や探検部で自然に親しみ、恩師から勧められたクマの糞の分析をきっかけに、研究者としての道を歩み始めました。

現在は、GPSやカメラを使った行動研究に加え、植物の種子散布や、クマの個体群の維持に関する共同研究にも取り組んでいます。

小池さんの研究が教えてくれるのは、クマには人間の安全を脅かす側面と、森林の生態系を支える側面の両方があるということです。

かつて山中でクマの痕跡を探し続けた大学生は、今では人間と野生動物がどのような距離で暮らしていくべきかを考える、重要な研究を担っています。

参考リンク

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