「電波でものを温める」を産業技術に変えた山本ビニター
2026年10月5日放送のサンテレビ「THE LEADERS ~未来を創るモノづくり企業~」で紹介されるのが、大阪の装置メーカー「山本ビニター株式会社」です。番組では山本泰司社長や工場長へのインタビュー、工場での製造現場を通して、高周波・マイクロ波による電波加熱技術、食品解凍装置、八尾工場のリニューアル、新分野への挑戦が取り上げられます。
中でも注目したいのが、冷凍された大きな肉のブロックを内部から温め、5〜30分という短時間で後工程に適した温度まで解凍できる高周波解凍技術です。
約30年前、食品加工会社から寄せられた「大型の冷凍原料をムラなく解凍したい」という相談から始まった開発は、現在の高周波解凍装置「TEMPERTRON(テンパトロン)」へつながっています。
この記事でわかること
- TEMPERTRONが冷凍肉を5〜30分で解凍できる仕組み
- 約30年前の食品会社からの相談で開発が始まった経緯
- ビニール加工会社から電波加熱メーカーへ発展した歴史
- 2028年の八尾工場全面リニューアルへ向けた現在の動き
高周波解凍は冷凍肉を5〜30分で-1〜-5℃まで調温
公式動画:山本ビニター「3分でわかる電波加熱」
山本ビニターの高周波解凍では、約-20℃で凍結した牛肉・鶏肉・豚肉などを、次の加工工程に適した-1〜-5℃まで5〜30分で解凍できます。
ポイントは、外側から熱を伝えるのではなく、冷凍品そのものを内部から発熱させることです。
高周波の電界を食品に作用させると、内部で分子運動が起こり熱が発生します。そのため大きなブロック状の冷凍原料でも、中心まで短時間で温度を上げやすくなります。
一般的な外部加熱では、先に表面が温まり、中心部がまだ凍ったままという温度差が起こりやすくなります。
高周波解凍では食品内部に直接エネルギーを届けることで、表面だけが先に溶ける状態や解凍ムラを抑えます。肉や魚からうま味を含んだ水分が流れ出す「ドリップ」を減らせることも大きな利点です。
TEMPERTRON-Vは重量や高さを読み取り解凍条件を自動設定
現在の主力機の1つが「TEMPERTRON-V」です。
2026年10月14日から東京ビッグサイトで開催される「TOKYO PACK 2026」にも出展される機種で、冷凍原料を段ボールや包装に入れた状態のまま内部から加熱できます。
特徴的なのが、特許技術を使った「NAVIモード」です。
センサーによって投入した食品の重量や高さを読み取り、蓄積されたデータを使って適した解凍プログラムを自動生成する方向へ進化しています。
食品工場では、毎回同じ担当者が機械を操作するとは限りません。
山本ビニターは、細かな設定に熟練した人でなくても扱える装置を目指しており、将来的には食品の種類や状態、加熱中のデータまで利用して、AIが最適な条件を判断する仕組みも見据えています。
開発の始まりは約30年前の食品加工会社からの相談
高周波解凍装置の開発が始まったのは約30年前です。
きっかけは、海外製の解凍装置を使用していた食品加工メーカーから寄せられた相談でした。
冷凍ハンバーグなどの原料となる大きな肉のブロックでは、従来の電子レンジ型の技術では中心部まで均一に解凍することが難しく、解凍ムラやドリップが課題になっていました。
そこで山本ビニターが持っていた高周波誘電加熱技術を食品へ応用します。
同社が長年続けてきたのは、最初に製品を作って売るのではなく、顧客から寄せられた「加熱に関する困りごと」を自社技術で解決する方法を探すものづくりです。
食品解凍への進出も、その積み重ねから始まりました。
約30年間の改良で食品工場の解凍工程そのものを変えた
現在の装置に至るまでには、約30年間にわたる改良があります。
携わったのは商品開発の担当者だけではありません。
- 営業
- 技術開発
- 商品開発
- 機械設計
- 制御プログラム
- 製造
- 試験・評価
など、複数の部門が長年改良を重ねてきました。
以前は「冷凍原料は時間をかけて自然解凍すればよい」という考えもあり、高価な設備を導入する必要性が理解されにくい時期もありました。
しかし現在は、食品ロス削減、品質管理、衛生管理、人手不足、省人化への対応が求められています。
解凍に何時間も必要な状態から短時間解凍へ変われば、その後の切断、成形、充填、包装などにもつなげやすくなります。
単なる「肉を早く溶かす機械」ではなく、食品工場全体の工程改善につながる装置へ役割が広がっているのです。
「ものづくり日本大賞」で高周波急速解凍装置が評価
山本ビニターの高周波急速解凍装置は、2026年の第10回「ものづくり日本大賞」で近畿経済産業局長賞を受賞しています。
受賞案件は、
「コールドチェーンの一翼を担う、解凍革命『高周波急速解凍装置の開発』」
です。
山本泰司社長をはじめ、今堀敏弘さん、児玉順一さん、井口健治さん、古川浩己さん、吉田浩二さん、松井仁司さんの7人が受賞者となりました。
評価された背景にあるのが、短時間解凍だけではありません。
冷凍食品の品質を保ちながら解凍ムラやドリップを抑え、食品加工現場の省人化や作業効率向上へつなげてきたことが、この技術の強みです。
原点は1953年創業「山本ビニール」のビニール加工
現在の山本ビニターは食品機械メーカーとしてだけでなく、木材、プラスチック、医療など幅広い産業へ電波加熱装置を供給しています。
しかし1953年の創業時は「山本ビニール株式会社」という会社でした。
創業者の山本晴敏さんが大阪市で塩化ビニール生地の販売と加工品の製造を始めたことが出発点です。
転機になったのが、ビニール生地を接着するために使われていた「高周波ウェルダー」でした。
高周波で材料を加熱・溶着すると、強度や仕上がりを保ちながら工程を省力化できます。
1954年には高周波ウェルダーの研究開発へ本格的に入り、1969年には高周波機械ブランド「ビニター」の浸透を受けて、現在の「山本ビニター株式会社」へ社名を変更しました。
ビニールをくっつけるために使っていた技術が、その後70年以上にわたり発展し、巨大な冷凍肉を解凍する技術へつながったことになります。
電波加熱は木材・プラスチック・医療にも活用
山本ビニターが扱うのは食品解凍だけではありません。
現在は高周波・マイクロ波加熱を、
- 食品の解凍・加熱・乾燥
- 木材の接着・乾燥
- プラスチック製品の溶着
- 工業製品の加熱・乾燥
- 医療分野
などへ展開しています。
例えば木材では、材料全体を熱するのではなく接着剤を効率よく加熱・硬化させることができます。
医療分野では、京都大学との共同研究を経て開発したがん温熱治療装置が1984年に医療機器として承認されました。
「電波で内部から熱を発生させる」という1つの基本技術を、素材や用途に合わせて別の産業へ展開してきた企業です。
八尾工場は2028年に全面リニューアル、生産量を最大2.5倍へ
山本ビニターが現在進めている大きなプロジェクトが、大阪府八尾市にある八尾工場の全面リニューアルです。
第1期工事は2026年10月に完了予定で、2028年に全体が完成する計画です。
新工場では装置の開発と製造機能を集約し、装置生産量を最大2.5倍まで引き上げる計画を掲げています。
背景にあるのは、省エネルギーや省人化につながる設備需要の拡大です。
新拠点では、顧客の課題を見つけて技術を試す「コトづくり」と、実際の設備として製造する「モノづくり」を同じ場所でつなぎます。
10月5日の「THE LEADERS」でも、この八尾工場のリニューアルと、その先にある新分野への挑戦が取り上げられます。
山本ビニターの会社情報
山本ビニター株式会社の基本情報は次の通りです。
- 会社名:山本ビニター株式会社
- 創立:1953年3月1日
- 代表取締役社長:山本泰司
- 代表取締役副社長:椋木逸生
- 資本金:8,500万円
- 従業員数:150人
- 工業所有権数:190件
- 本社:大阪市天王寺区上汐6丁目3番12号
- 主な事業:高周波・マイクロ波加熱装置、医療機器の製造・販売など
- 主な製造拠点:大阪府八尾市・八尾工場
経済産業省の「地域未来牽引企業」に2020年、「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に2021年に選定されています。
まとめ
山本ビニターは、1953年にビニール加工会社として始まり、高周波を使った溶着技術を起点に、電波加熱の用途を食品、木材、プラスチック、医療へ広げてきた大阪のメーカーです。
食品分野への進出は約30年前。大型の冷凍肉を均一に解凍できないという食品加工会社の悩みをきっかけに、高周波誘電加熱を使った解凍装置の開発が始まりました。現在では、約-20℃の冷凍肉を-1〜-5℃まで5〜30分で解凍できる技術へ発展しています。
さらにTEMPERTRON-Vでは、重量や形状に合わせた設定の自動化を進め、2028年には八尾工場の全面リニューアルも完了する計画です。
2026年10月5日の「THE LEADERS ~未来を創るモノづくり企業~」は、身近な電子レンジにも通じる「電波でものを温める」という原理を、70年以上かけて産業技術へ育ててきた山本ビニターの現在を知る機会になります。
参考リンク
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