上勝町の「葉っぱ」が、農家の女性たちの人生と町の産業を変えた
2026年9月26日放送の『新プロジェクトX〜挑戦者たち〜』で取り上げられるのは、徳島県上勝町で約40年続く「葉っぱビジネス」です。
日本料理に添えるモミジやナンテンなどの葉や花を「つまもの」として商品化。山間部で大規模農業には向かない町に、女性や高齢者が中心になって働ける新しい産業が生まれました。
始まりは、1981年の異常寒波で町の主力だったみかんが大きな被害を受けたことでした。農協職員だった横石知二さんが「町にある葉っぱを商品にする」という発想を持ち込み、農家の女性たちと試行錯誤を重ねます。
単に「葉っぱを売った成功物語」ではありません。家族を支える立場だった女性たちが、自分で商品を育て、注文を読み、売上を競い、自分自身が仕事の主役になっていったことこそ、この物語の大きな特徴です。
この記事でわかること
- 上勝町「いろどり」の葉っぱビジネスの現在の年商と仕組み
- 1981年の寒波から「彩」が誕生するまでの経緯
- 農家の女性たちが葉っぱを売れる商品へ変えた方法
- 横石知二さんから次世代へ受け継がれる現在の取り組み
上勝町「いろどり」は葉っぱを年商3億円規模の産業にした
「葉っぱビジネス」とは、日本料理を彩る季節の葉、花、山菜などの「つまもの」を栽培し、出荷する農業ビジネスです。
現在の「彩(いろどり)」では300種類以上の商品を年間を通じて出荷し、上勝町内の農家約140軒が参加しています。
今回のテーマでは「年商3億円」のビジネスとして描かれますが、株式会社いろどりが公表している2024年度(令和6年度)の年商は約2億6000万円です。2020年度にはコロナ禍の影響で約1億5000万円まで落ち込みましたが、その後大きく回復しています。
さらに、年間売上が約1000万円に達する高齢の生産者もいます。町に普通に生えていた葉っぱを拾って売っているわけではなく、需要を読みながら商品として栽培・管理する本格的な農業です。
上勝町は平地が少ない山間の町です。大規模な機械を使った農業には不利ですが、軽くて扱いやすい葉や花なら、高齢になっても仕事を続けやすい。
土地の弱点と思われていた条件を、そのまま強みに変えたことが「彩」の出発点でした。
1981年の異常寒波でみかんが大打撃を受けた
上勝町ではかつて、木材や温州みかんが地域を支える重要な産業でした。
ところが1981年、局地的な異常寒波が町を襲います。みかんは大きな被害を受け、それまでの農業を続けることが難しくなりました。
町ではホウレンソウなどの軽量野菜やシイタケ栽培など、新しい作物を模索します。
その中で当時農協職員だった横石知二さんが考え続けたのが、女性や高齢者でも無理なく続けられ、上勝町だからこそできる仕事でした。
転機となったのは、横石さんが飲食店で料理に添えられた葉を喜ぶ女性客を見たことでした。
山では特別な価値がないと思われていた葉っぱが、料理の世界では季節感や美しさを演出する商品になる。
横石さんはこの違いに目を付け、1986年に「彩」というブランドで葉っぱビジネスを始めました。
「葉っぱがお金になるはずがない」から始まった農家の女性たち
当然、最初から周囲が賛成したわけではありませんでした。
葉っぱを販売するという考え自体が当時は珍しく、「そんなものが売れるのか」と受け止められたからです。
それでも協力する農家が現れます。
事業の初期から携わってきた高尾晴子さんもその一人です。高尾さんはもともと生け花に使う花木を育てており、葉を商品として扱うことにもつながる経験を持っていました。
横石さんから声をかけられ、高尾さんら生産者が試行錯誤を始めます。
しかし、葉を集めて市場へ出すだけでは売れませんでした。
料理人が必要としている葉の大きさ、色、形、使う季節が分かっていなかったからです。
料亭へ通って「ただの葉っぱ」を料理人が欲しい商品へ変えた
ここから「彩」が大きく変わります。
横石さんは料亭などへ足を運び、日本料理でつまものがどのように使われるのかを研究しました。
大きさをそろえる。形を美しくする。傷のない葉を作る。そして、日本料理では実際の季節より少し早く季節感を演出することがあるため、その時期に合わせて出荷できるよう栽培する。
山から採ってきた葉をそのまま売るのではなく、料理人が使いたい状態に仕上げる「商品」へ変えていったのです。
現在では、田畑だった場所にもモミジやナンテンなどを植え、収穫しやすいよう管理しながら育てています。
高尾晴子さんも、約40年間続いた理由について、単なる葉っぱ拾いではなく農業として取り組んできたことを挙げています。
女性たちは「農家の妻」から自分で売上を作る生産者になった
「彩」が画期的だったのは、売れた金額だけではありません。
これまで家族の農業を支えてきた女性たち自身が、生産者として商品を考え、育て、出荷し、自分の売上を持つ仕事になったことです。
しかも葉っぱは軽量です。
重い農作物を何箱も運ぶ仕事とは違い、年齢を重ねても続けやすい。現在も彩農家の中心は70代から80代です。
初期から携わる高尾晴子さんも80代になった現在まで現役です。
注文がどれだけ入るのかを自分なりに予測し、その読みと実際の注文が合うことを楽しみながら仕事を続けています。
働くことが「生活のため」だけではなく、自分の知恵を試し、結果が数字で返ってくる仕事になっているのです。
高齢農家がタブレットで市場を読む「上勝情報ネットワーク」
葉っぱビジネスを支えているもう一つの特徴がICTです。
彩農家はパソコンやタブレットなどから「上勝情報ネットワーク」を利用できます。
確認できるのは、
- 全国から入る受注情報
- 市場の動き
- 今後の需要予測
- 前年との比較
- 栽培管理情報
- 自分の売上順位
などです。
農家は「今日は何を採れば売れるか」を自分で考えます。
注文が入りそうな葉を予測して準備し、素早く出荷する。情報を受け取って指示された作物を作るだけではなく、自分自身がマーケティングを行う仕組みになっています。
売上順位が見えることも生産者同士の刺激になりました。
「高齢者だからITは難しい」と決めつけず、売上につながる情報なら使いたくなる仕組みにしたことも、長く続く理由の一つです。
横石知二さんが残した「人は誰でも主役になれる」
葉っぱビジネスを生み出した横石知二さんは、株式会社いろどりを長年率い、上勝町を代表する産業へ育てました。
その横石さんが大切にしてきた言葉の一つが「人は誰でも主役になれる」です。
実際に上勝町では、家族を支えていた女性や高齢者に「自分の商品」「自分の売上」「自分の仕事」が生まれました。
株式会社いろどりは1999年に設立され、葉っぱの販売支援だけでなく、市場分析、営業活動、情報システム運営などを担当する会社へ発展しています。
横石さんは2025年8月8日に66歳で亡くなりました。
現在は、2011年から横石さんと仕事を続けてきた粟飯原啓吾さんが代表取締役社長を務めています。株式会社いろどりは今回の放送について、横石さんとともに歩んだ農家の女性たちが登場することを発表しています。
約40年続いた葉っぱビジネスはいま世代交代へ
成功した「彩」にも大きな課題があります。
生産者の高齢化です。
現在も約140軒の農家が参加していますが、高齢化によって生産量を増やすことが難しくなっています。
一方で、農家の子ども世代が上勝町へ戻る動きもあり、事業は世代交代の時期に入っています。
株式会社いろどりでは農業体験や長期研修を実施。長期研修生が農家で働きながら知識や経験を身につけ、2~3年後の就農を目指す「いろどりヘルパー制度」も用意しています。
約40年前に女性や高齢者へ新しい仕事を作った葉っぱビジネスが、今度は次の世代へ技術と市場を引き継ぐ段階を迎えているのです。
「彩」のつまものを購入する方法と株式会社いろどり
「彩」で扱う主な商品には、南天、青もみじ、季節の葉、葉わさび、すだち、ゆず、ゆこうなどがあります。
つまものは一般的なネット通販商品とは販売方法が異なり、基本的には仲卸業者を通じて青果市場へ注文する仕組みです。
株式会社いろどりの概要は次の通りです。
- 名称:株式会社いろどり
- 所在地:徳島県勝浦郡上勝町大字福原字川北100-1
- 設立:1999年4月2日
- 代表取締役社長:粟飯原啓吾
- 彩農家:約140軒
- つまもの:300種類以上
一般向けには株式会社いろどりのWEBショップで、上勝町のお茶やぽん酢、ギフトなども販売されています。
まとめ
徳島県上勝町の葉っぱビジネス「彩」は、山にある葉っぱを高く売っただけの地域ビジネスではありません。
1981年の寒波で主要産業だったみかんが大きな被害を受けた町で、横石知二さんと農家の女性たちが、日本料理の世界に新しい市場を見つけました。
料理人が必要とする品質を研究し、栽培方法を変え、情報システムを導入し、生産者自身が市場を読みながら売る仕組みを作る。
その結果、女性や高齢者が町の産業を支える「主役」になりました。
約40年を経た現在、「彩」は300種類以上の商品を扱い、約140軒の農家が参加する産業へ成長しています。
そして現在の課題は、その仕事を次の世代へどうつないでいくかです。
「人は誰でも主役になれる」という言葉が、上勝町では今も葉っぱの仕事を通じて受け継がれています。
参考リンク
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